全天候型行動から雨天中止へ(1) – 岩崎元郎の山談義

「山談義」4回目は、『全天候型行動から雨天中止へ』と題して、二つの拙文を紹介する。いずれも山に対する取り組み方を論じている。

一つ目は「悪天候と山」。本格的な登山修行をはじめたときから、天気が悪いという理由で登山中止することはなかった。そのいきさつが「悪天候と山」。

しかし、自分もご一緒する皆さんも高齢化するに従い、雨天中止を選択肢に含まざるを得なくなった。そのあたりの事情が二つ目の「雨天中止」である。

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悪天候と山

高校時代は自己流で山に登っていたが、大学進学と同時に本格的な登山の修行をすべく、社会人団体である昭和山岳会に入会した。

様々な登山を勉強させて貰ったが、全天候型登山を教えてくれたのも昭和山岳会であった。

豪雨だろうと吹雪だろうと、ベンチレーターからちらっと外を盗み見ただけで安易に停滞を決めるなんてとんでもない、というのである。

一度テントの外に出て、行動できる天気か否か体でチェックしろというのである。

自分がどこまでの天気なら行動できるのか、自分の限界を自分で確認しろというのである。素晴らしい教えであった。

今日、ぼくが安心・安全に楽しく登山を続けていられるのは、昭和山岳会のおかげと感謝している。

自分の限界はまだ確認できないでいるが、自分の限界を常に考える姿勢を学ぶことはできた。

悪天候は、山を学ぶよき教材であると知ったぼくは、ぼくが学んで来たように後輩たちにも学んで貰いたいと思い、登山学校“無名山塾”を創立した。

登山教室は雨天決行を旨として実施してきた。もちろん個人山行も。

昭和山岳会の修業時代、谷川岳幽ノ沢中央ルンゼを計画したとき。台風が発生し、週末は関東から越後に抜けるという。土曜日の夜の上野のプラットホームは大雨だった。他に登山者はいない。

Sさん、Yさん、ぼくの三人はガラガラの夜行列車に乗り込んだ。到着した土合駅は台風一過、幽ノ沢は貸し切り、青い空の下、中央ルンゼのクライミングを心ゆくまで楽しむことができた。

池袋のサンシャインシティ文化センターで、中高年と女性のための登山入門講座を開講したのは一九八三年のこと。

ぼくは三八歳で、受講生は子育てから解放された五〇代前半の女性が大半だった。五〇歳という方も一回り年上で、ぼくから見れば立派なおばさまであった。

六九歳(本文執筆時)になった今から振り返ってみると、皆さん若くて元気いっぱいだった。だからこそ、その教室でも雨天決行を宣言できたのだと思う。

実技教室で相模湖の南に位置する石老山の実施当日、朝から雨が降っていた。雨天決行を宣言しているとはいうものの、皆さんの足前と安心安全を考えると、状況によっては中止した方がベターな場合もある。

そんなことを考えながら集合場所の相模湖駅にむかった。相模湖駅のホームに降り立つと、「先生!」と大きな声がかかった。

皆さん、雨具をしっかり着込んで、雨天決行に備えていらっしゃる。この元気と笑い声があれば、雨天決行問題なし。雨の中、楽しい石老山ハイキングになった。

また別のとき、台風近づく中、夜の上野のプラットホームは大雨だったが、平標山から谷川岳の縦走をめざして新潟行きの夜行列車に乗った。

土樽駅は土砂降りの雨だった。登山中止を決めて、ちょうどホームに入ってきた上りの列車に乗り込んだが、台風のためそのまま土樽駅でストップしてしまった。そんなこともあった。だから登山は面白い。

バリバリの時代は、全天候型登山にチャレンジ頂きたい。 

後編:「雨天中止」編はこちら

岩崎元郎(日本登山インストラクターズ協会会長/無名山塾主宰)

1945年東京生まれ。1963年昭和山岳会に入会し本格的な登山を始め、1970年に蒼山会を創立、1981年ネパール・ニルギリ南峰登山隊隊長、同年「無名山塾」を設立し登山者の育成を始める。1995年~1999年にかけてNHKテレビ「中高年の為の登山学」の講師を務め、日本百名山ブームの火付け役となる。多くの登山者と登山指導者を育てた登山指導の第一人者で、現在は「登山者と登山指導者の育成」と「安心安全登山の啓蒙活動」を進めている。著書多数。

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