登山の危険 – 岩崎元郎の山談義

*12年12月15日発行「山の遠足連絡帳」巻頭言より

登山=自然は非日常の世界だから、危機管理意識が大切

12月9日、埼玉県山岳連盟主催の山岳事故防止のための講習会で、埼玉県警山岳救助隊隊長の飯田さんの山岳遭難に関わる講演をお聞きした。

2012年(11月17日まで)の県内の遭難発生は44件57名、内訳は死者4名、重傷13名、軽傷9名、無事29名、行方不明2名である。救助要請は44件中37件が、携帯電話によるものだそうだ。

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遭難原因は、道迷い、滑落、転倒、転落、発病とある。死者4名は、1名が発病、3名は転落とか。

発病のために死亡された方は単独、転落死された3名のうち2名はそれぞれ単独、転落して行方不明となり後日遺体で発見されている。

現在、行方不明の2名もそれぞれ単独で、単独行はリスクの大きいことが証明されている。

で、あるにも関わらず、山岳雑誌が「単独行の勧め」を特集するのはどうしてなんでしょう、と飯田さんが疑問を呈していらっしゃるのが可笑しかった。

転落死された残る1名の転落原因が、非常にお気の毒なものであった。家族6名でハイキングに出かけ、山頂で休憩の際、用足しのために人目につかない所に踏み込んだ結果の転落であったそうだ。

思いもよらない出来事だが、紛れもない「山の危険」の一事である。昨今、登山する人が非常に増えていて、山のトイレは看過できない問題になっている。

トレイルランナーの道迷いが2件報告されている。

2件とも単独で、短パンにランニングシャツという軽装。雨具、防寒着、ヘッドランプ無し。

一人は山梨県側から雁坂峠を越えて埼玉県側に下る際、目の下に国道が見えたので、コースを外し国道めがけて下って行ったら崖となり、身動きできなくなって携帯電話で救助要請。

しかし、現在地が判断できなくて自分の居場所が説明できない。

遭難者の話を総合してなんとか場所を特定して救助できたが、山を知らないシティーランナーは山に入るべきではない、と飯田さんは評していた。

山に入る人が増加しているが、人間関係を嫌って山岳会に入ることをせず、登山の知識は雑誌やネットからの情報鵜呑みなので、本当の意味での「登山の危険」が体にしみこんでいない、それが大きな問題だとぼくは思っている。

現代社会が情報化社会ということだろう。

情報社会は、情報を操る。登山という呼び方はハードっぽいので、ハイキングと呼び替える。山スキーと呼ぶとヘビーだから、バックカントリーと呼び替える。

登山=自然は非日常の世界だから、非日常の世界が内包する危険に対して身構えていなければいけない、即ち危機管理意識を持っていなければいけないのに、登山をハイキング、山スキーをバックカントリーと呼び替える結果、非日常の世界があたかも日常の世界であるかのような錯覚が生じる。

これでは危機管理意識を持つ、自立した登山者が育ちようもない。登山の危険は、ここに極まる。

*8年前に書いたものだが、現在も状況は変わっていないように思われる。20.9.30

岩崎元郎(日本登山インストラクターズ協会会長/無名山塾主宰)

1945年東京生まれ。1963年昭和山岳会に入会し本格的な登山を始め、1970年に蒼山会を創立、1981年ネパール・ニルギリ南峰登山隊隊長、同年「無名山塾」を設立し登山者の育成を始める。1995年~1999年にかけてNHKテレビ「中高年の為の登山学」の講師を務め、日本百名山ブームの火付け役となる。多くの登山者と登山指導者を育てた登山指導の第一人者で、現在は「登山者と登山指導者の育成」と「安心安全登山の啓蒙活動」を進めている。著書多数。

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