山岳指導者が教える、山でガス欠にならない食事と水のとり方 – 登山の教科書

シャリバテ(ハンガーノック)という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

登山では長時間にわたって体を動かし続けるため、日常生活に比べて比較にならないほどのカロリーを消費します。きちんとした食べ物をとらないで激しいエネルギー消費を行うと、血糖値が下がり、急にひどい空腹感に襲われて全身に力が入らなくなり、動けなくなってしまいます。

これをシャリバテ(ハンガーノック)と言いますが、山の中で動けなくなってしまうことはどれだけ危険なことか、初心者の方でも想像に難くないと思います。

同様に、登山では大量の発汗によって体内の水分が失われるため、適切な水分補給を怠ると簡単に脱水症状を引き起こします。脱水症状は、症状が進むと血栓のリスクなど命に関わってくる場合がある危険な状態です。

このようなリスクは基本となる知識があれば誰でも低減することができますので、是非本稿を参考にして登山に必要な水と食事のとり方の基本を知って安心登山が実践できることを願っています。

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1.ガス欠車では走れない

朝、出発前に食べると良いもの

朝、食べないで登山するとお腹が空いて足が上がらなくなったり、緊張して行動中何も食べないと血糖値が下がって体に力が入らなくなることがありますが、これをいずれもシャリバテと言いいます。

シャリバテを防ぐ糖質(炭水化物)にはでんぷん類と糖類の2種類があります。

でんぷん類は遅効性だから腹持ちが良く除々に効いてくるため、朝の出発前に食べておくと良く、糖類は速効性だから疲れた時やシャリバテした時に食べると直ぐに効きます。

しかし朝、糖類を摂るとボーンと血糖値が上がり、体が防御反応を起こして血糖値を下げようとするため疲れ易くなります。

登山に必要なカロリー

登山中の1日に必要なカロリー量は個人差や登山形態による差がかなり大きいですが、大まかな目安として男性 3600kcal で、これは御飯 15 杯分に相当します。

1時間当たりの運動必要量 350kcal/h と基礎代謝量 1500kcal を足したもので、歩行時間を 6 時間とした場合です。

基礎代謝量とは目覚めている時最低限必要なエネルギー量の事で、女性は1時間当たりの運動必要量 300 kcal/h・基礎代謝量 1200 kcal として 1 日当たり 3000 kcal が必要になります。

保健所で出している「食品成分表」には全ての食品についてのカロリー量が書いてあるので利用しましょう。

また、売っている食品の表面に「栄養成分表示」が記載されているので見る癖を付けておくと良いです。

シャリバテを防ぐために

登山中は最低でも 2 時間に 1 回は食べ物を補給しよう。お腹が空かない内に前倒しで食べれば疲れない体を保つことが出来きます。

糖質(炭水化物)を中心にして塩味酸味を混ぜて飽きないように工夫するとよいでしょう。暑い時は塩味・寒い時は甘味・疲れた時は酸味がそれぞれ美味しいのは体が要求しているからです。

レモンは豊富に含まれているクエン酸が疲労素である乳酸を分解してくれるし、梅干はクエン酸を含むと同時に発汗で失われた塩分を補給してくれます。

痩せるために山歩きしている人がいて、食べないで歩けば痩せると勘違いしているようですが、脂肪は炭水化物と一緒でないと燃焼しないという特性を知っておきましょう。

芋を食べながら歩くと痩せるという話は理にかなっています。

2.行動食と非常食

行動食

初心者のうちはリーダーが“お弁当の時間ですよ”と言ってくれて 20 分以上かけて昼食を摂るので行動食という言葉の意味が分からないと思います。

上達してくると、体を休めるだけなら6~7分で充分だから時間が勿体ないという理由や、長く休むと体が冷えるという理由から昼食休みは無くなります。

お昼御飯を短い休憩時間でちょこちょこ少しずつ食べるから行動食という言葉になります。

行動中は胃腸が弱っているから体のためにも丁度良いのです。

行動食は、オニギリやパン等のでんぷん類が主流で、甘い物は直ぐエネルギーになるからシャリバテに効果はあるが、摂り過ぎると脂肪になるので太る元凶になります。

しかし、激しい運動の後は交感神経が興奮状態で食欲が低下しますし、行動時間が 10 時間を越えると体も胃腸も疲れてしまってオニギリなんて受付けなくなることがあります。

その場合、食べ易くすぐエネルギーになるのがチョコレート・コンデンスミルク・飴玉の類です。

非常食

非常食とは緊急野営になった場合の食料のことです。

一晩生き長らえる量で良く、軽量でかさばらない物が良いです。

同じ物ばかりだと口に入らないので何種類かを組み合わせて袋に入れ、常に携帯しましょう。   参考までに、1000 kcal 程度の軽量非常食の例を次に挙げます。

品名 カロリー 重さ 100gあたりカロリー
カロリ-メイト 200kcal 40g 500 kcal
ソイジョイ1 136kcal 30g 453 kcal
ソイジョイ2 126kcal 30g 420 kcal
くるみ 213.3kcal 30g 711 kcal
松の実 63.3kcal 10g 633 kcal
ミルクあめ 148.8kcal 35g 425 kcal
酸味の菓子 65kcal 15.4g 422 kcal
塩昆布 38kcal 18g 211 kcal
乾燥梅干 17.4kcal 10g 174 kcal
合計 1007.8kcal 218.4g

この他よく使う物にチョコレートやコンデンスミルクがあります。疲れた時でも口当たりが良くて美味しいのですが、重量的には不利でコンデンスミルクは 100g当たり 285 kcal しかありません。

非常食は毎回持ち歩くので古くなり過ぎないように注意しましょう。行動食が余らないで全部無くなり、非常食は使わずに全部残っているというのが下山した時の理想の形です。

尚、よく似た言葉で予備食というのがあります。予備日が設けられている場合の食糧のことですが、登山界は言葉の定義が曖昧で、本によっては違う意味で使っています。

また、疲れてオニギリを受け付けなくなった時のチョコレート等を指して非常食と言って いる人もいます。生理的非常事態という考えでしょうか。

3.山で摂るべき栄養素

栄養学プロはバランス良い栄養を摂りなさいと言いいます。

しかし、山では軽量化や時間短縮などの条件が厳しく、栄養バランスまで要求されたら難しくて食料計画が立てられません。

そこで、対象を日程の短い登山に限定して栄養学をシンプルにし、登山入門者が分かり易いように整理します。

栄養の目的は1エネルギー、 2体づくり、 3コンデション整備の 3 つですが、登山の食料としてはこのうちの“エネルギー”だけ考えれば良いのです。

山の食事に筋肉作りを期待する人はいないし、1 日や 2 日ビタミン不足でコンデション整備 が不足したって何ほどのことも無いからです。

五大栄養素と言うのは糖質・脂質・蛋白質・ ミネラル・ビタミンの 5 つで、それぞれ働きがあり複雑に絡み合い、前記の 3 つの目 的を果たしています。

しかし、エネルギーを作るのは糖質がほとんどだから、登山では五大栄養素 の他の 4 つは無視して、糖質だけ考えましょう。

糖質とは御飯・餅・パン・ジャガイモ・麺 類・砂糖等です。ただし、糖質がエネルギーに変わる時にビタミンB1 が必要なので、 これも一緒に摂るようにしましょう。

ビタミンB1 は“きなこ”・胡麻・ピーナッツ・胚芽米等です。   こうして整理したら登山には極端な話、“きなこ餅”だけ持っていけば良いことになって栄養学が分かり易くなります。基本が分かったらあとは各自で応用しましょう。

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伝統製法のきびだんごに「オリゴノール」という低分子ポリフェノールを配合し、山の行動食やスポーツの休憩時にとっていただく軽食として最適です。

栄養バランスを無視するとは乱暴に過ぎると言うのであれば、軽量で扱い易いサプリメント・フーズがいろいろ販売されているので研究すると良いと思います。

最近は、アミノ酸系のサプリメントが良く使われています。

アミノ酸は蛋白質を構成する最小単位で種類がたくさんありますが、市販のサプリメントは吸収の速い種類のアミノ酸を使っています。

疲労の原因となる乳酸の発生を抑え、傷ついた筋肉を修復する働きや、脳疲労を軽減する作用があります。

鉄分は貧血防止に役立つので心当たりの人はその関係のサプリメントを考えるようにしましょう。発汗によるカルシューム不足を補うサプリメントもあります。

一方、果物は食べ易く、幸福な気分になれます。サプリメントだけでは味気ないと思う人は、無理なく背負える範囲で持って行くと良いと思います。

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運動開始60~30分前に3~4粒を水などで飲み、体内のグリコーゲン(エネルギー)の燃焼を向上させることで、理想的な代謝効率をつくりあげます。

持ち運びやすいラミジップSサイズは、山登り、スポーツジム、水泳、大会時などにコンパクトで便利です。

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運動直後の30分間は筋肉のゴールデンタイム。運動後、できるだけ早いタイミングで3~4粒ほど水などで摂取することで、最適な栄養を素早く補給することが効果的なリカバリーとボディデザインに繋がります。

4. 登山前後の食事

山で摂るべき栄養素の項目では『山での食事に栄養バランスなどと言うのはナンセンス、軽量化してカロリーだけ摂れば良い』と述べましたが、登山前後の日頃の食生活でそれを補い、体をつくる配慮をしましょう。

下山後の筋肉痛に対しては、壊れた筋肉を再生する為にたんぱく質が必要ですし、日常のトレーニングで体力をつける為には様々な栄養が必要となります。

栄養をバランスよく摂るには、御飯などの主食と肉や魚などの主菜・野菜などの副菜・ 乳製品 などを揃える事が理想です。

食べることもトレーニングの一つです。人の体は食べ物で出来ているので、食べないと強くなれません。

冬は粘膜を強くし、免疫力を高めるカボチャ・ニラ・ニンジンなどを多用し、食欲が落ちる夏は親子丼・八宝菜など汁気の多い献立がよいといわれています。

足がつり易い人は、筋肉の動きに関連するミネラル類を含むナッツ類を食べましょう。

ミネラル類は運動の他、ストレスでも消耗して足がつる原因の一つになります。

歳をとると骨がもろくなり、ひどくなると骨粗しょう症になります。日本のような火山国の土地で育った食物にはカルシュームが少ない。

そこで、カルシュームを摂る工夫も大切ですが、体からカルシュームを失わない努力もしよう。喫煙・アルコール・コーヒー・お 菓子・加工食品をたくさん摂るとカルシュームを失い、ストレスでもカルシュームが奪われます。

5.カーボローディングの話

長時間運動してもエネルギー切れしない身体を一時的につくることをカーボローディングと言います。 マラソン等の持久力系運動選手は皆やっています。

登山の 2~3 日前から炭水化物中心の食事に切り替えるのがカーボローディングで、肉や魚でなく御飯やうどんを中心にした食事に切り替えます。

普段の食事は糖質エネルギー比 55%くらいですが、カーボローディングの時は 70%に上げます。 厳しい登山が予想される時は 1 週間前からカーボローディングに入る場合もあります。 

専門的に話すと、カーボローディングとは運動に必要なグリコーゲンを事前に体に貯えることです。

グリコーゲンの元になるのは糖質(炭水化物)ですが、グリコーゲンの蓄積を促すのはクエン酸ですから柑橘類や梅干と一緒に摂るのが普通です。

6.特殊なケースは分けて考えよう

人は特殊なケースほど強く印象に残り、他人に話したがるものです。

初心者がベテランの話を聞く時注意しなければならないことの一つで、登山とはいつもそうするものだと勘違いしてはいけない。

ガスボンベやバーナーを使ってインスタントラーメンやフリーズドライ食品を作って食べるのは贅沢なひと時ですが、登山入門者がいきなりやるのは無理な話です。

軽量化に反するし、同行者の行動に合わせるのに精一杯で、時間の余裕も心の 余裕も無いからです。

キャンピングカーを使ってアウトドアに出かける人達は豊かな食事を楽しみますが、その延長で登山を考えてはいけません。

しかし、時々特殊なケースがあります。何かの記念行事や、たまには良いだろうという感覚の忘年登山・お花見登山がそれにあたります。

ゆっくり時間をかけて仲間と楽しく昼食を作るのですが、この場合は時間の問題や軽量化の問題を犠牲にしなければならないから大きい山へは行けません。

献立については、手早く出来て、美味しくて、楽に運べて、栄養があって、 を総合して工夫することになります。めったに無い機会だから他人からレシピを教わるより、 自分で試行錯誤してオリジナルを考える方が面白いですね。

7.水の飲み方

汗で失われる水分を補給しないと脱水症状になります。初期の脱水症状は疲労感や持久力の 低下・発汗量の減少ですが、少し進むと血液がドロドロ状になって血栓の危険があります。

動脈硬化症が進んでいる中高年者は気を付けるべきです。   喉が渇いた時は既に脱水症状が始まっているので、喉が渇く前に前倒してこまめに、少しずつ飲むのがコツです。

一度に大量の水分を摂取すると過剰な利尿を促し、返って水分を失う恐れがあるから注意しなければなりません。各自が意識して早めに水分を摂れば疲れない体で歩けるのですが個人差が大きい。

従って、休憩時間に限って皆で一緒に水を飲むのは理に適っていません。ハイドレーションシステムを使うと休憩時間に限らずいつでも自由に水が飲めるから便利です。

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汗と一緒に塩分が出てしまうので、梅干や塩昆布を食べて補給しましょう。

スポーツドリンクも良いですが市販のスポーツドリンクには糖類が大量に含まれているから、カロリーの摂り過ぎに注意しましょう。

失った大切な電解質をすばやく取りもどします。水分と一緒にとることでバランスある補給ができます。1粒あたり電解質である塩化ナトリウム(食塩)や塩化カリウムなどを配合、さらに水分と電解質の吸収を高めるためにグルコース(ブドウ糖)とクエン酸、糖質からのエネルギー生産などに必要なビタミンB1、抗酸化作用をもつビタミンCなどを配合しています。

水量については1人1日1L~3Lが必要と言われ、2Lが目安のようですが、個人差が 3 倍 と大きく、その日の行動形態で同じ人でも 3 倍くらいの開きがあるから一概に言えません。

標準タイムで一緒に歩いても体力の無い人にとっては厳しい登山でハーハー呼吸して水をたくさん飲むが、体力のある人は楽な登山でケロッとしていて、この程度の登山ではあまり水を飲まないことがあります。

ところが、このケロッとした人でも健脚者だけの登山で荷物が重かったり、スピードが上がったりすると厳しくなってたくさん水を飲みます。

更に天候や季節によっても違ってくるので、全てを加味すると多い時の水量と少ない時の水量では 10 倍以上の開きになります。

水は多過ぎると重いし、少な過ぎると困るので厄介な話ですが、 体験を積んで、自分で自分のデータを集めるしか方法はありません。

山行後は状況と体調変化を添えて、飲んだ量をメモしておこう。このメモがたくさん集まれば自分の飲み水の量を他人に聞く必要がなくなります。

登山を始めたばかりで自分のデータがまだ無い人は、とりあえず1日当り2Lで計算したら良いと思います。

ポカリスエットやお茶でも良いが、真水にはいろいろな使い道があるので、 0.5L以上を真水かお湯にしましょう。

必要水量の目安である1日当り2Lというのは朝食や夕食を含めての量です。食事と一緒に摂る水分の方が水だけ飲むより吸収が良く、水だけたくさん飲んでも何割かはそのまま尿になって出てしまいます。

朝の味噌汁・お茶・牛乳・コーヒー等がとても重要になってきます。  山へ入ってからが登山ではなく、朝起きた時から登山は始まっているのです。

最後に

いかがでしたか。山で安全に行動するには、水分補給とエネルギー補給の知識が必要になってきます。本稿でその基本を学び、みなさんの安心・安全登山につながれば幸いです。

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