災害は忘れた頃にやってくる。火山の危険 – 岩崎元郎の山談義

「岩崎元郎の山談義」2回目は「火山の危険」を取り上げる。

っなんで今頃!?と思われる方が少なからずいるだろう。2014年9月27日、多くの登山者が犠牲になった木曽御嶽山の爆発事故を、忘れてはならない遭難事故として記憶に留めている人は何人いるだろうか。

「災害は忘れた頃にやってくる」、けだし箴言である。かくいうぼくも忘れていた。

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火山の危険

ぼくは、危機管理の大切さを再三指摘している。危機管理はイマジネーションだ。起こりうる問題を想定して対策を考える、それが危機管理である、と。

御嶽山が爆発した。2014年9月27日、紅葉真っ只中、良く晴れた土曜日の昼頃とあって大勢の登山者が山頂付近で寛いでいたところに突然の爆発、60人を超える登山者が犠牲になった。

びっくりした、ほかに言葉がない。

御嶽山登山計画に際し、起こりうる問題として火山の爆発をだれか想定したであろうか。だれもしなかったと思う。ぼく自身数回御嶽山に登っているが、火山の爆発を一回たりと頭に浮かべたことはない。

ぼくらが学生の頃は、活火山「現在、噴火している火山」、休火山「噴火記録はあるが、噴火活動を休止している火山」、死火山「噴火記録のない火山」という分類があった。

しかし、死火山だからといって今後爆発しないという保証はない。

日本活火山総覧 (1984年)』によると、火山学の発展に伴って、「過去一万年間の噴火履歴で活火山を定義する」という国際的な認識の下、同総覧では110の活火山が掲載されている。

110の山のほとんどは、ぼくらが登山対象にしている山だ。

昔だったら、死火山だから爆発の心配はないだろうという危機管理ができた。いつどの山が噴火するか分からないという現在にあっては、110の山を対象にしたときは、危機管理のしようがない。

情報をしっかり収集せよとのアドバイスがあるが、雲や風を観測しての天気予報だって、当たったり当たらなかったりするのだから、地下の目に見えない火山活動の予測など現時点の科学力では期待する方が、無理というものである。

御嶽山の爆発は、想定外の出来事だったというしかない。

爆発はさておいて、我々登山者が直接関わりを持つ、火山の危険の大なるものは火山ガスによる中毒死だ。

例に挙げられる事故として、八甲田山で訓練中の自衛隊員が3名、女子中学生1名、安達太良山沼ノ平で登山者4名、草津・本白根山で登山者3名、立山弥陀ヶ原でキャンプ中の2名、阿蘇山で観光客2名の死亡事故がある。

安達太良山沼ノ平の事故は、1997年9月に発生。安達太良山は自分の大好きな山の一つで、沼ノ平のコースも含めて何回も登っているだけに、事故の報に接したときはショックが大きかった。

事故に遭ったパーティは霧のために道を失い、正しいコースに向かおうとして危険地域に入り込んでの事故であった。危険地域は凹地で、その日は風がなく凹地に火山ガスが滞留していたためであった。パーティにとって不運だったのは、霧と無風という気象状況であった。

2010年六月、酸ヶ湯温泉付近の八甲田山中で、タケノコ採りをしていた中学生の女子が火山ガスで中毒死した。当日は曇りで風速は1メートル以下、火山ガスが発生し、滞留していたものと思われる。

地元の登山ガイド氏は、「登山道には匂いがする所はあっても、ガスが貯まるような場所はない。しかし、登山道から外れると危険な場所があるかも知れないと考えなくてはいけない」と指摘。

「長年来ているから大丈夫と考える人が多いが、条件は日々変化していて、きのうは大丈夫だったからきょうも大丈夫ということにはならない」と語る。

環境省自然保護局による「有毒な火山ガスから身を守るための手引き」によると、火山ガスの危険は、

  1. 目に見えないこと。火山地帯でもくもく涌く白い煙は水蒸気で、その他のガスは無色透明なので目視できない。
  2. 臭いも当てにならない。硫化水素はゆで卵の腐ったような臭いがするが、濃度が濃くなると嗅覚が麻痺して臭いを感じなくなる。二酸化硫黄は鼻にツンとくる刺激臭があり、人によっては低い濃度でも危険。二酸化炭素は無味無臭だ。
  3. 濃い硫化水素ガスを吸い込むと、一瞬で意識不明となり、放置すれば死亡する。
  4. 呼吸器に疾患のある人、特に喘息のある人は危険。低濃度の二酸化硫黄でも発作を起こして、呼吸艱難に陥る

などと説明されている。

計画時に対象とする山が、火山ガスが発生している山か否かを確認しておくべきであろう。

火山ガスで死亡事故のあった山・地域として、前出の手引きには、大雪山、八甲田山、秋田焼山、鳴子、安達太良山、那須岳、草津白根山、立山、箱根山、阿蘇山、霧島山が挙げられていた。

山行中の注意としては、単独行はやめようということが、ここでも指摘されている。

火山ガスは空気より重いので、低い所に貯まるから谷筋や凹地のコースは避けた方が安心。ガスの臭いを感じたら、水に濡らしたタオルやハンカチで口と鼻を覆う。硫化水素や二酸化硫黄は水に溶け易い。危険を感じたら、風上のより高い場所に移動する。

日本は火山国である。登山の危機管理として、「火山の危険」をしっかり認識しておかねばなるまい。

岩崎元郎(日本登山インストラクターズ協会会長/無名山塾主宰)

1945年東京生まれ。1963年昭和山岳会に入会し本格的な登山を始め、1970年に蒼山会を創立、1981年ネパール・ニルギリ南峰登山隊隊長、同年「無名山塾」を設立し登山者の育成を始める。1995年~1999年にかけてNHKテレビ「中高年の為の登山学」の講師を務め、日本百名山ブームの火付け役となる。多くの登山者と登山指導者を育てた登山指導の第一人者で、現在は「登山者と登山指導者の育成」と「安心安全登山の啓蒙活動」を進めている。著書多数。

岩崎元郎の山談義シリーズ

NHKテレビ「中高年の為の登山学」の講師を務め、日本百名山ブームの火付け役となり、多くの登山者や登山指導者を育成してきた日本の登山界のレジェンド・岩崎元郎による、山談義。タメになる山のお話やエッセイを不定期に連載するコーナーです。

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