「雨具置いて行っていいですか?」「ダメ」。「ヘッドランプ置いて行っていいですか?」「ダメ」、よくあるやりとりだ。
素晴らしい青空、きょう一日絶対雨は降りそうもない。
で、雨具携行の是非をリーダーに聴いてみる。きょうは行動時間が短い軽ハイキングだ。昼過ぎには間違いなく下山できるだろう。
そう思ってヘッドランプ携行の是非をリーダーに聴いてみる。どちらも、返ってくる言葉は「ダメ」。
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山の天気は急変する。早朝出発の際素晴らしい青空でも、いつ灰色になるか予断を許さないのが山だ。
ぼく自身何回かそんな目に会わされている。特に忘れられないのは十数年前、中央アルプスでの天気の急変だ。
入山一日目は池山尾根を登って空木岳に立ち、下って木曽殿山荘に登山靴を脱ぐ。夕食後のテレビのニュースは、明日は昼前頃から天気が崩れると報じていた。
翌朝小屋を出ると、天気が崩れるなどとは信じられない素晴らしい青空だ。
歩きはじめて2、3時間、熊沢岳を越えた辺りだった。なにげなく空を見上げると空いっぱい灰色だ。
ヤバイ、と思った次の瞬間、頬に水滴がパチンときた。ただちに足を止め、雨具装着を指示した。
全員が雨具を着込みザックを背負って態勢を整えたときは、本降りの雨、強い西風が吹きはじめた。
ネパールトレッキングでの一日。
素晴らしい青空の下、朝食を済ませる。メンバーの一人がサーダーに質問した。
「雨具携行しなくても大丈夫ですか?」。サーダーとはシェルパ頭のことである。トレッキングパーティのチーフリーダーといっていい。
ぼくらのサーダーは、三浦雄一郎さんがエベレスト登頂のパーティでサーダーを務めたちょーベテランのシェルパである。
縁あって彼とは仲良くしていたので、ぼくのトレッキングでも体が空いているときはサーダーをお願いしていた。
その彼が、「きょうは雨はふらないでしょう」と答えた。荷物は1グラムでも軽い方がいいと考えているメンバーは、大喜びで背中のザックから雨具を出し、ポーターに預けるバックに移した。
ポーターとは行動が別、途中で雨が降ってきても雨具はひっぱり出せない。
この日、午前中はよかったが、午後にわか雨が降ってきた。道端の民家の屋根の下で雨宿り、小一時間で雨は上がり衣服を濡らすことはなかったが、サーダーがちょーベテランのシェルパだったので、皆さん大笑いで一件落着。
ガイドブックの行動時間によれば、余裕持って日暮れ前にバス停に着けるはずが、一人ころんで捻挫、なんとか歩けるから歩いて下ることとする。
しかし、ペースが半減して日が暮れてしまったというのは、よくある話。
どんなに天気がよく行動時間の短いコースでも、雨具とヘッドランプは絶対に携行するというのは、登山者の常識である。
以上、常識的なことを書き連ねたが、しつこく次回に続きます。
岩崎元郎(日本登山インストラクターズ協会会長/無名山塾主宰)
1945年東京生まれ。1963年昭和山岳会に入会し本格的な登山を始め、1970年に蒼山会を創立、1981年ネパール・ニルギリ南峰登山隊隊長、同年「無名山塾」を設立し登山者の育成を始める。1995年~1999年にかけてNHKテレビ「中高年の為の登山学」の講師を務め、日本百名山ブームの火付け役となる。多くの登山者と登山指導者を育てた登山指導の第一人者で、現在は「登山者と登山指導者の育成」と「安心安全登山の啓蒙活動」を進めている。著書多数。
岩崎元郎の山談義シリーズ
NHKテレビ「中高年の為の登山学」の講師を務め、日本百名山ブームの火付け役となり、多くの登山者や登山指導者を育成してきた日本の登山界のレジェンド・岩崎元郎による、山談義。タメになる山のお話やエッセイを不定期に連載するコーナーです。
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当サイト「GoALP – 山を楽しむ人のための安心・安全登山メディア」の監修者でもあり、登山を教えることのできる者が集まった非営利集団で、山岳事故を減らすための啓発活動をしている日本登山インストラクターズ協会(2013年創立・岩崎元郎代表)が、来春より開催する6期目「JMIA登山講習会」の受講者を募集しています。あなたも、一年かけて実際に山に登りながら山岳指導者の手ほどきをうけてみませんか?