山登りをしていて緊張する場面といえば、岩場や鎖場ですよね。
一般的なコースでも小規模な岩場や鎖場に遭遇し、不安を覚えたこともあるのではないでしょうか。
このとき、基本的な技術や体の使い方をしらないと不必要に緊張したり、体がこわばったりして思わぬケガをすることもあるでしょう。
また、ステップアップして日本アルプスなど高い山々を踏破するためには、岩場が連続するような場面も安心して通過できるようにならないといけません。
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初心者・中級者が岩稜地帯の岩場・鎖場を安心して通過するためには、三点確保によるバランスクライミング を身に付けておく必要があります。
このためには、もっぱらゲレンデで安全を確保してクライミング(岩登り)の練習を行うのが一番の近道です。
ハーネスを装着し、ロープを付け、パートナーにビレイされた状態で繰り返し練習します。
実際の登山ではハーネスやクライミングシューズが無いから、そのような練習は意味が無いと思うかも知れませんが、手足の運び方や体の動きを身に付けておけば、登山靴を履いた時でもバランス良く猫のように歩くことが出来るようになります。
そこで本稿では、岩登りの基本的なテクニックについて解説します。
1、クライミングのための装備
初級の岩登りで使う装備は、
- ハーネス
- クライミングシューズ
- 長スリング
- 短スリング
- カラビナ
- 安全環付カラビナ
- 確保器
- ヘルメット
で、リーダーはこの他にロープ(ザイル)と幾つかのカラビナやスリングが必要になります。
ゲレンデは混み合う上に皆が同じ物を持っているので、購入したら直ぐ目印を付けて自分の物が識別出来るようにしておきましょう。
ロープを踏んだり、濡らしたり、岩や枝に当ててキズ付けないようにしましょう。
クライミングシューズ購入の際、店員に勧められても、長時間履いていられないようなキツキツの靴を買わないようにしましょう。
使用する場所がアウトドアだから1日中履いていることになり、室内のクライミングウォールで使う時より少し大きめのサイズを選ぶ必要があります。
長スリングとは1200mmのスリングのことで、短スリングとは600mmのスリングのことをさします。
ハーネス
クライミング用の安全ベルト。現在はレッグループタイプのシットハーネスが主流。
クライミングシューズ
クライミングのための専用靴。靴底は特殊ゴムでフラットに出来ていて、摩擦抵抗を上げるように設計されています。
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スリング
リング状になったロープやテープで、支点と支点、支点と体を連結するために用いる。スリングは英語で、シュリンゲがドイツ語。
カラビナ
クライミング用具の一つで、ロープやスリング等を連結する金具。開閉できるゲートが付いており、開閉に何らかのロック機能が付加されたものが安全環付カラビナ。
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確保器
ビレイ器とも言って、墜落を止める為の器具。エイト環・ATC 等
2、ロープの結び方
ロープの結び方は本で紹介されているだけで何十種類もあり、とても覚えきれるものではありません。
レスキュー隊などの専門家や上級クライマーを目指すのでなければほとんど使う事の無いものが多いので、話題が出ても特殊な結び方は遊び程度に聞いておきましょう。
覚えなければならない筆頭は8の字結び(エイトノット)で、次がクローブヒッチ(インクノット)とダブルフィシャーマンノット。この3つが確実に出来るようになったら、ムンターヒッチ(イタリアンヒッチ)とマッシャ―(巻付け)を覚えれば普通の登山で不便することはありません。
結び方の図解はどの本を見ても必ず載っているので、必要ならそれを見れば良いと思いますが、正直初心者が図解を見ただけで理解出来るとは思えないので貴重なページを割いて図示する事を差し控えたいと思います。
実際にヒモを手にして熟達者から手ほどきを受け、手に馴染んで無意識でも結べるようになるまで、繰り返し練習するという性質のものなのです。
登山中危険場面に遭遇した時、追い詰められた精神状態の中で迅速・確実に出来るか否かが生死を分ける事もあるので、体で覚えていなければなりません。
エイトノットは自然に解けてしまうことがないから信頼性が高く、結び方の基本として最も一般的に採用されています。
解く時は張りを緩めて二つに割るようにすれば簡単に解けます。
解き易いことも現場では重要な要素です。しかし、結び目がねじれていると、力が掛かって締め付けられた後は解けにくくなるから注意しましょう。
一般生活で使っている“止め結び”(オーバーハンドノット)は動かすと緩んでくるので信頼性が低いばかりか、力が掛かった後は固くなって解けないから、命に関わる重要な場面では使われません。
ロープは結び目から切れることが多いですが、綺麗に結んであると切れにくいです。
3、三点確保によるバランスクライミング
三点確保とは左手・右手・左足・右足の四点のうちの三点で体をしっかり確保したまま、一点だけを動かして少しずつ前進しようというものです。左手の次は右手、その次は左足というように交互に一点ずつ動かします。
大切なのは三点が滑らない状態に保たれていることですから、動かす一点は後のためにしっかりしたポイントを捉えなければなりません。
このポイントをホールドと言い、手で掴むポイントをハンドホールド(または単にホールド)、足を乗せるポイントをフットホールド(またはスタンス)と言います。
両手を離して立てるような場所がスタンス、それより小さい足掛りがフットホールドです。
(1)ハンドホールドのとらえ方
バケットホールド(通称 ガバ)
内側に大きくえぐれたホールドで一番有り難い。 普段と同じ感覚でガバッと掴めます。通称の方が一般的です。
ピンチグリップ
手の平に入るくらいの小さな岩の出っ張りなので、わし摑みにします。
オープンホールド
外傾している大きな出っ張りで、引っ掛かりが無いから難しい。 指を伸ばして押しつけるようにし、手の平の摩擦を使います。
エッジホールド
尖ったエッジですが、ガバのように手が入らないので、指を揃えて第一関節が反り返るように立てます。親指は他の指に添えて助けにします。
その他
縦ホールド・アンダークリング・ジャミング等がありますが、少し上達してから勉強すれば良いと思います。
(2)フットホールドの捉え方
捉え方にはエッジングとスメアリングの2つの方法があります。
エッジングは岩の出っ張りに立つ時の方法で足の親指側で立つインサイドエッジと小指側で立つアウトサイドエッジがあります。
初心者は“土踏まず”で立とうとするが、バランス良く立つにはクライミングシューズの先を使って立つ方が良いです。
スメアリングは靴底の摩擦(フリクション)を利用した足の置き方で、現場で使うのはこちらの方が多いと思います。
エッジングに適した岩の出っ張りが人工壁のように理想通りあるはずがないからです。
フリクションが利けば利くほど滑らないですから、登りでは傾斜に合わせて“つま先”を上に向け、足の裏全体で岩を押すようにして立ちます。
初心者は足の筋肉を使って押しつけようとしますが、そんな力はたかが知れていますし、すぐ疲れてしまいます。
軸足に体重を乗せて摩擦力を増やすのが一番良いので、その為のコツを挙げます。
- 足の移動と一緒に、素早く重心を移動させる。
- スケート選手のように腰を動かす。
- 浮かした足を他方の足に擦り寄せるようにしながら持ち上げる。
(3)上手な登り方
初心者か熟達者かは下から見れば直ぐ見分けられます。
初心者は岩にへばり付くので上半身に力が入ってしまい、見るからにバランスが悪いのです。
熟達者は上半身が岩から離れてリラックスし、膝にゆったりと伸縮性を持たせているのでバランスが良いのです。
<良い登り方>
胸を張るように垂直に立ちます。
ひざをゆったりさせて、上半身はリラックスさせます。
<悪い登り方>
岩にへばりつくとバランスが湧くなり、上半身に力が入ってしまいます。
上体を岩から離す理由を次に挙げます。
- 重力(地球の引力)に対して垂直に立つのに有利。
- 胸を張れば上半身がリラックスする。
- 岩にしがみ付いて腕が縮んでいると動作が硬くなる。
- 腕は伸ばさないと疲れる。
- 体が岩にへばり付いていると足元が見えない。
(4)ロープを使ったクライミング
トップロープクライミングとリードクライミングの2つの方法があり、初心者が練習で使うのはトップロープクライミングになります。
登る人(クライマー)と安全確保する人(ビレイヤー)が1本のロープの両端を結び合って岩の下部に並び、ロープの中間を岩の上部に設けた確保支点に引っ掛けた状態からスタートします。
クライマーが登り始めたら、その動きに合わせてビレイヤーがロープを送り出したり引き寄せたりして、ロープにたるみが無いようにします。万一、クライマーが足を滑らせて墜落したら、瞬時にビレイヤーがロープにブレーキを掛けてストップさせまます。
ビレイヤーは確保器(エイト環またはATC等)を通してロープを操作していて、この確保器が自動車のブレーキに似た役目をします。
岩の上部の確保支点をセットするのは初心者では難しいから、熟達者か指導者にやってもらいましょう。
安全で確実な確保支点をセットするのはかなりの経験が必要になります。
(5)トップロープでの下り方
クライムダウンとロワーダウンの2つの方法があります。
クライムダウンは登る時と同じ要領でビレイヤーにビレイしてもらいながら手足でホールドを掴んで下る方法です。
ロワーダウンはビレイヤーに全てを預けて、ビレイヤーの確保器操作のスピードに合わせて下ります。
どちらを選択するかはクライマーが決めることで、ビレイヤーに前もってどちらかを伝えておきます。
ロワーダウンをテンションと言うことが多いですが、この場合のテンションという言葉はロープに体重を託してぶら下がるからテンションがかかるという意味なので、用語としては正しくないと思われます。
(6)ビレイ
ビレイとは確保のことで、墜落事故を起こさないために重要な操作です。
パートナーを安全確保する操作は単にビレイと言うが、自分の安全を確保する操作は特別にセルフビレイ(自己確保)と言います。
初心者はセルフビレイが何よりも重要で、パートナーからビレイされていない時は、どんな場面でもセルフビレイをとる癖をつけてほしいと思います。
スリングの両端にカラビナを掛け、片方を樹木等の安全な確保支点に固定し、片方を自分のハーネスかメインロープに固定するのですが、初心者が安全を見極めるのは難しいので、熟達者か指導者の指導を受けましょう。
セルフビレイはセットした後も時々引っ張って安全を確かめましょう。
混雑した岩場に初心者が何人かいると、間違えて他人のセルフビレイを外してしまう“うっかり屋さん”がいないとも限らないからです。
岩の上部から下を覗く時はセルフビレイを引っ張って確かめてからにしましょう。
初心者がパートナーをビレイする場合、何かあると気が動転して手の平でロープを握ろうとしてしまいがちですが、こんな力はたかが知れているし、ロープの摩擦で怪我をするから止めましょう。確保器という“道具”をしっかり使うことが重要です。
4、懸垂下降
岩場を下降する時、かなり頻繁に使う技術なので初心者といえども早い段階でマスターしましょう。
確実な技術が身につけば、登山中の岩場において三点確保のクライムダウンより安全で、疲れないで、速いスピードで下れます。
樹木等の確保支点に安全環付カラビナをセットし、それにロープを通すのですが、これらのセット作業は熟達者か指導者にやってもらいます。
セットが完了して指示されたら、支点近くのロープをダブルのまま自分の確保器にセットし、操作してスピードを調整しながら下降します。
下降中は足を肩幅くらいに広げると安定します。
足を突っ張らず、壁面を歩くようにリズムよく操ります。この一連の動作の間、下降開始までは必ずセルフビレイをとっておく事が重要です。
良い懸垂下降
最後に
いかがでしょうか。
岩場や鎖場を安心して通過するためには、岩登り(クライミング)の技術が重要になってきます。
この技術はネットや本で読んだだけでは身につきませんので、熟練者に指導してもらいながら実際に練習を重ねるしかありません。
でも、そのような指導者や仲間が身近にいない、という場合も多いでしょう。
そのような場合は、信頼できる登山インストラクターが主催している講習会や体験会に参加すると良いでしょう。
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