一般登山において、ロープ(ザイル)が必要になる場面はどういったときでしょうか。
ある程度、登山の経験が増えてきても山にロープを持っていかれる方は多くはないかもしれません。
ロープはただ携行すればよいものではなく、使い方を学んでおかないと、いざロープが必要な場面に遭遇しても無用の長物どころか、誤った使い方をするとさらなる危険にさらされてしまいます。
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一般登山において、ロープは滑落などの危険がある場面で、安全を確保するために使用します。
「身の安全を守る!登山における10の危険箇所の通過法」で解説したような、思わぬ危険箇所に遭遇した場合を考えると、安全を確保し危険箇所を通過するためのロープワークの技術は必須といえます。
本稿きっかけにして、実際にロープワークについて練習し、技術を身につける人が少しでも増えればと思います。
1.ロープの役割
目次
安全措置は事故を起こさない役目だけでなく、万一事故が起こった時、被害を軽く収める役目もします。
一担山に入った以上はどんな事をしても下山しなければならないのですから、ロープ等の非常装備を使いこなせるように普段から練習しておきましょう。
誰かと話した時に“谷に落ちた人を引き上げる方法を教えて下さい”と言われました。
しかし、傾斜が緩い谷で墜落者が自力で動けるようなら手助け出来ますが、そうでない場合に初心者集団で引き上げるのは無理です。
ロープを固定し、懸垂下降で下りたとしても、その人を背負ってプルージックで登り返すのは余程の体力と技術が無くては出来ません。2人をロープに結んで、大勢で呼吸を合わせて引っ張ると言っていたのですが、確保器を使わないでそんな事をして、途中で緩んだら返って危ないです。
ロープは墜落してから使う物ではなく墜落しないように安全を確保する為の物なのです。
2.ロープワーク
一般道で使うロープワークには、ロープを横方向に張りスワミベルトを装着してカラビナスルーをするケースと、ロープを縦に張ってプルージックで登るケース、同じく縦に張って懸垂下降で下りるケースがあります。
この他にコンテニアスといって2人の体をザイルで結び合って前後に並んで歩くケースもありますが、1人が墜落したら2人共落ちてしまう恐れがあるので余程の熟達者以外はやってはいけません。
(1)スワミベルトを装着してのカラビナスルー
スワミベルト・安全環付カラビナ・カラビナ・短スリングを使って初心者用に組み合わせた物が一般的に使われています。
危険箇所の通過に不安のあるメンバーが装着し、予めリーダーが固定したロープにカラビナを引っ掛けて崩壊地等の危険箇所をトラバースします。
緊急時は素早い装着と素早い解除が要求され、操作の確実性はもとより大切なので、繰り返し練習して体に覚え込ませておきたいものです。
スワミベルトの末端は必ず折り返してバックルから抜けないようにします。
スワミベルトから体が抜けることを不安がる人は、スリングを太股にはいて下から固定しましょう。
スワミベルトの持ち合わせがない時はスリングで簡易ハーネスを作る方法もあります。
リーダーの装備には
・ロープ
・安全環付カラビナ×2
・カラビナ×3
・長スリング×2
・短スリング×3
が必要になります。
ロープは2000mを越える中級以上の山岳の場合8mm×30m,日帰り低山の場合7mm×20m,を持って行きましょう。
鎖や木・岩角等の信頼できる確保支点にロープの両端を固定し、ゆるまないように要所にランナー(中間支点)をとります。ピンと張る事が重要で、緩いのにつかまると体が振れて危ないです。ロープが仇になった事故が過去にもあります。
(2)プルージックで登る
傾斜がきつくない所を大勢のメンバーが短時間で登るのに適した方法です。
リーダーが予め固定したロープにメンバーが自分の短スリングをプルージックで巻き付け、短スリングの反対側を自分のハーネスに固定します。
一般登山にハーネスは持って行かないから、この場合は長スリングで作った簡易ハーネスになります。
プルージックの結び目を手で押せば上方へズレますがが、離せば下方へはズレないので、メンバーは続けて次々と登って行けます。
(3)ロープを使った下降
代表的なのが懸垂下降で、『“岩登りと三点確保”』で詳しく説明しています。
一般登山に確保器(エイト環・ATC等)は持って行かないのでカラビナを使ってイタリアンヒッチで確保する必要がありますが、これは熟達していないと危ないです。
傾斜が緩くて安全な所を素早く下降する方法としては肩がらみの懸垂下降があります。
もっと安全な所なら両手でロープに摑まって下降すると良いです。通称“ゴボウ”と言っている方法で、ロープの途中に幾つかコブを作っておくと握力の無い人でも楽に下れます。
いずれの場合もロープはダブルにしておいて、全員が降り終ったら片方を引いて回収します。
3.安全登山の為に
折角ロープを持っていてもリーダーが使い方に慣れていないと返って危険を招くことがあります。また、メンバーが三点確保によるバランスクライミングに自信が無いと、いざという時恐怖心から固まってしまう恐れがあります。
これが槍ヶ岳などの混んでいる所だとグループ以外の人にも迷惑を掛け、焦りから事故を招く結果になりかねません。ハイキングから登山に転ずる人は納得するまでゲレンデの練習を積み上げてほしいと思います。
クライミングの講習では必ず“手は添えるだけで、足で登るのだよ”と言います。
これは正しいのですが、聞く方が過剰に受け取って、手の力は不用だと考えたら誤りです。
クライミング中の大部分は足で登りますが、難しい核心部では手の力が必要になります。
鎖場・梯子場も同様で、普段は足で登るのですが、足を滑らせた“いざっ”という時は腕でぶら下がることになります。腕の力は安全確保の最後の砦です。
中高年者で鎖場・梯子場が怖いと言っている人を観察したら、腕力か握力が弱くてぶら下がった時自分の体重を支えられないから、ということです。これでは怖いはずで、リーダーが“怖くないよ”と言っても受け入れてもらえません。
こういう人は普段のトレーニングで腕力と握力を鍛えることが大切で、少なくとも自分の体重が支えられるようになるまでは、危険地帯に入らない方が良いと思います。不安があるとリズムを崩し、思わぬところで大事故になります。
最後に
ロープワークは記事や本を読んだだけでは決して身につくものではなく、練習をして体に覚え込ませて初めて実地で役にたちます。そのためには、講習会など実地で講師から手ほどきを受けるのが一番の近道です。
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