緊急時でも慌てない、夜間の歩行と緊急野営(ビバーク)の方法 [後編] – 登山の教科書

登山をしていて、予定よりも時間がかかってしまい暗くなってしまった体験はあるでしょうか。
経験がある方はわかると思いますが、とても心細い気持ちになりますよね。

登山中は、ケガや道迷いなど様々なトラブルに見舞われることは少なくありませんので、このような状況に陥る可能性は誰にでもあるものです。

日が暮れかかったとき、登山口や山小屋などの目的地まですぐ近くであればそのまま続行すればよいでしょう。
しかし、そうではない場合あなたはどのような判断をするでしょうか。

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選択肢は2つで、夜間でもあるき続けるか、野営(ビバーク)をするかになります。

前編では夜間歩行におけるポイントを解説しました。後編ではビバークに関する方法や装備、気をつけるべきポイントについて解説したいと思います。

緊急野営(ビバーク)のしかた

ビバークとはテント無しの野営のことで、フォーストビバーク(思いがけない野営)とフォーカストビバーク(予定に組込まれた野営)があります。今回のテーマはフォーストビバークだからフォーカストビバークの話は省略します。

ビバークと言ったらフォーストビバークのことと考えて欲しいと思います。
ビバークを余技なくされると精神的に落ち込むものですが、暗い気持で何をやってもロクな事がありません。
この先大丈夫だろうかと不安がるより、上手なビバーク体勢が出来た事を喜び、野営を楽しむくらいの心の余裕が必要です。

食べて、暖かくして眠るようにしましょう。
眠ると凍死するというのは意識が無くなるほど疲労した時であって、普通は寒さで自然に目が覚めるから心配いりません。

ビバークのために登山道を離れる時は滑落しないように注意し、翌朝戻る際に道迷いしないよう位置や方向を把握しておかなければなりません。

(1)ビバークに必要な5つの装備

日帰り登山でも万一を考えた装備は携帯しましょう。

①ツェルトと細引き

ツェルトにはいろんな種類があり、大きさは座って被るだけの物から2人がゆっくり寝られる物まで様々です。
山行スタイルと軽量化を吟味して自分に合った物を購入しましょう。
ツェルトの役割は3つあります

  • 夜露を防ぐ
  • 体温低下を防ぐ
  • 気力体力の温存

張り方はあまり難しく考えない方が良いと思います。
家を出る時から細引きは付けておき、両端を木にぶら下げて真ん中を外から引っ張って膨らませればOKです。

丁度良い具合に木がなかったらロープを木から木に渡してそれに取り付けても良いし、ストックを使う手もあります。膨らませる為に中で傘をさしても良いです。
ペグは不要で、枯枝を差し込んで石で押さえるか直接石に細引きを結んで遠くへ引っ張ります。

そこにある物で工夫するのが基本だが、何も考え付かなかったら、そのまま頭から被ってしまいましょう。
ツェルトが無かったらロープを張ってレジャーシートを小屋掛けにします。

全員のシートを繋げば大きいタープの代用になります。
それも無かったら岩陰や木の下に落ち葉を敷き、枯木や草で屋根をかけます。
高山ではハイマツの茂みの中に潜り込むだけでもかなり違います。

②ヘッドランプ

ヘッドランプの種類はたくさんあって、年々進歩しています。
山行中は電池を抜いておかないと、ザック内で押されてスイッチオンになった時、無駄に消耗してしまいます。

③食料と水

行動食と非常食・普通の飲み水と非常用の水という区別をいつも意識しましょう。

④レスキューシート

ツェルトは数人入れる物をパーティーで幾つか持っていけば良いですが、レスキューシートはメンバー全員が一つずつ持とう。

⑤その他

小型ガスボンベセット・コッフェル・ライター・ナイフ・メタ・新聞紙・ビニール袋、等があれば心強い。

(2)ビバークに適した場所

①安全な所

落石・増水・滑落・雪崩・崖崩れ・雷・毒虫や蛇、に配慮して安全な場所を探します。

②消耗を減らす所

平坦地・風当たりの弱い所・水はけの良い所を探します。

(3)ビバーク中冷えを防ぐ4つの工夫

①自然の物を利用する

地面から冷えてくるから、落葉・枯枝・草、等を敷き、その上にツェルトを張ってレジャーシートかザックを広げます。

太い枯枝をイカダのように並べて、その上に木の枝を敷き詰めれば更に良いです。
大きいビニール袋に落葉を入れればマットが出来ます。

②持物は全て利用する

着られる物は全部着ます。ザックは座布団にしたり足を入れたりします。
ウエアの間に新聞紙を挿むとかなり暖かいです。
2人以上の時は背中合わせになると暖かいです。
お湯を沸かして飲めば体の中から暖まります。

③濡れた下着は体温を奪う

着替えがあれば下着だけでも着替えて、濡れている方も乾かす工夫をします。
着替えが無ければ脱いで堅く絞り、乾いたタオルと一緒にもう一度絞るとかなり湿り気がとれます。
新聞紙は吸湿性があるので下着の上に挿むと良いです。
着替えが無くても濡れた下着は脱いでしまった方が良いかも知れない。

④焚火をする

地域によっては焚火を禁止しているが緊急時は許してもらいましょう。
山火事に気を付け、マナーを守ることは言うまでもありません。
盛大な焚火でなく、不安な気分と冷えた体を暖めるだけの小さな火を長時間維持するようにします。
濡れた下着や手袋等を乾かせるので嬉しい。
着火材としてはメタ等の固形燃料があれば最高ですが、無ければガムテープでも代用できます。
それも無ければ新聞紙を使います。

夜間歩行かビバークか判断のための8つのポイント

山行中暗くなってしまいそうな時は、ヘッドランプで夜間歩行するかツェルトでビバークするか判断しなくてはなりません。

早く見極めることが重要で、暗くなってからのビーバク準備は精神的な負担が大きいから明るいうちに決断しよう。

ビバークと決めたら歩きながら適地を探すのですが、夜になってからだと選定を誤る恐れがあります。

技術と体力のあるメンバーばかりで、道がしっかりしている一般道なら歩いてしまった方が良いです。
しかし、次の状況ならビバークする方が賢明です。

  1. ヘッドランプの電池が朝までもちそうにない
  2. 道が正しいかどうか自信がない
  3. この先の地形は広い尾根で、道に迷いそう
  4. 雪で踏み跡が消えそう
  5. この先に岩場や沢沿い等の危険地帯がある
  6. 体力的にバテそうなメンバーがいる
  7. 技術不足で怪我しそうなメンバーがいる
  8. メンバーに怪我人・病人・著しく疲労した者がいる

怪我の場合は程度も判断材料で、骨折や強度の捻挫ならビバークですが、軽い捻挫や膝痛・足つり・頭痛・マメ・靴擦れなら歩いてしまいましょう。

一方、全く別の角度からの判断ですが、身体が雨で濡れているのにビバーク装備が無く、一晩持ちこたえられる精神力が残っていないなら危険を覚悟で下山した方が良いです。

人間は弱いから、極限の寒さの中で雨と風に襲われると頑張って生きようとする気力を失ってしまいます。
体力さえ残っていれば歩いていることで温まるし、気が紛れる効果もあるのです。

ビバークをするためのポイントまとめ

  • ビバークに必要な装備を知ろう
  • ビバークに適した場所を知ろう
  • ビバーク中は冷え対策を工夫しよう

夜間歩行かビバークかの判断

  • 8つの判断ポイントを参考に
  • 装備がなく持ちこたえる精神力がなさそうなら下山を選ぼう

最後に

いかがでしたか。日が暮れてからの山での行動は精神的にも負荷が高まります。
本稿で説明した知識を蓄えたり実際に夜間歩行やビバークを体験しておくことは、肉体的だけでなく精神的にも大きく負担を和らげますので、万が一の状況でも安全に登山を継続するための安心材料になれば幸いです。

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