万一遭難したと思ったら、迷わず慌てず救助を求めよう(前編) – 登山の教科書

遭難は、誰も好き好んでする人はいませんよね。
自分は遭難なんかしない、想像したこともないという方もいるでしょう。
一方で、一歩間違えれば遭難していたかもしれないという、ヒヤリとした経験をされた方もいるのではないでしょうか。

もし、そのような状況に陥った場合、あなたは適切な行動がとれるでしょうか。
パニックになってしまっては、状況をより悪化させることにつながります。

そのような事態を避けるため、本稿では遭難したと判断した際、適切に救助の要請をするためにあなたがとるべき行動を前編・後編に分けて説明します。

はじめに – 遭難時の心構え

道迷い後の事例の中に、元気で彷徨った人が疲労凍死して、怪我のため一ケ所にとどまって救助を待った人が助かった、という話があります。
「自力脱出は無理」と判断したら、ためらわず救助要請に方針を切り替えましょう。
中高年者が人を背負うのは無理ですから、動けない人がでたら救助を要請するしかありません。

ですので、パーティーが事故からピンチを経由して“遭難”という事態になってしまった時は諦めて、統制がとれて節度ある立派な遭難をしましょう。

遭難に立派も何もあるものかと人は言うかも知れませんが、済んでしまった事は仕方ないのだから、救助隊から“ひんしゅく”をかう事のないような、礼儀正しい遭難を心掛けることが重要です。
その為には上手に救助を依頼し、救助隊が到着するまでどのようにして待つかのノウハウを身に付けておきたいところです。

この時、大人数のパーティーで一番困るのは鳥合の衆で、中途半端に知っている者ばかり集まって、あーだこーだとワイワイ言っていたら何も結論が出ません。

たとえ最良の方法でなくても、誰か一人が仕切った方がはるかに早いし、スムーズにいきます。
反対に何も知恵が浮かばないのも困ります。

冷え切ったアルプスで同行者全員がボーッとしてヘリコプターの到着を待っていたという事例があり、怪我人は薄いシートに寝かされただけで唇を紫色にして震えていたといいますから、これでは救助隊が来る前に低体温症になってしまいます。

実際の遭難場面では気持が動転しているから、ここで書く資料のようにきれいに出来るはずはないですが、普段から予行演習しておくことで、いざという時パニックにならず、冷静に対応出来るはずです。

1.まずは何より、遭難を減らすための「登山の鉄則」

「パーティー以外の第三者が動き出した状態」というのが遭難の定義です。

家族の要請で救助隊が出動し、翌朝自力下山した遭難者が“自分達はビバークしただけで遭難していない”とテレビで主張していたのですが、この定義に当てはめると明らかに遭難です。ビバークは正しい判断だったけれど、それを遭難騒ぎにしないための配慮が欠けていたと思います。

事故が発生しても遭難に至らないケースはたくさんあります。自力脱出が可能な時は出来るだけ頑張りましょう。
技術や知識を身に付けて登山力をアップさせればかなり解決するのですが、それには時間がかかります。

気持の切替えだけで、今すぐ遭難を減らせる方法はないのでしょうか?その答は次の“登山の鉄則”を守ることです。

登山の鉄則1 道に迷ったら登る

道に迷ったからといって沢へ下ってはいけません。
初心者は沢をたどっていけば街に出られると思いがちなのですが、沢ほど怖いものはありません。

沢は“沢登り”という特殊な登山分野で、しかも下りは登りより難しいのです。
技術の無い者が装備もなくて出来るものではありません。

枯れた滝をなんとかズリ落ちながら下った先に、到底降りられない滝が出てきたとします。
先程降りた滝は技術が無いから登り返せないし、左右は岸壁。沢筋は携帯が繋がらない。
捜索ヘリコプターが出動しても沢の中は死角となります。

一方、日本の山では頂上稜線にたいてい登山道か仕事道がついているので、高みへ登っていけばどこかで道に出られます。

登山の鉄則2 道に迷ったと気付いたら気持を落着かせる

道迷いからパニックになった事例はたくさんあります。
事故でピンチに陥った時パニックになると痴呆的症状が生まれます。
孤独感や恐怖心から夢遊病者のように山中をさまよい、衣服を脱ぎ、靴も脱ぎ捨て、力尽きて倒れます。

ある事例では、7月の暑い時期の低山にもかかわらず両足凍傷というから調べたら、足を沢に浸したまま一夜を明かしたらしいのです。

落ち付いて開き直って、暗くなりそうなら早めにビバーク体勢に入れば良いのです。
朝になれば何かしら解決策が生まれるはずです。

登山の鉄則3 登山に出発する時は常に夜間歩行とビバークの覚悟をしておく

経験しておくことと装備を携行することはもちろん大切だが、家族の理解を得ておくことはもっと重要です。
自分にはこういう知恵があって、こういう装備を持っていくんだと全てを話し、何も連絡が無かったらきちんと対応している証拠だから、“予定日に帰宅しなくても翌日一杯は騒がないで欲しい”と言って安心させておきましょう。

2.救助要請マニュアル

怪我での遭難を想定して救助要請のプロセスを整理してみました。
これに沿って近くの山で練習しておくと良いでしょう。

想定:頼りの引率者が転倒して足首骨折・本人は動転して指示が出せない・地面は雨上がりで濡れている・寒い・時刻は午後

けが人の介護と、救助要請を手分けして同時進行します。

A. 介護班

1.怪我の状態を確認する
2.応急処置をする
3.暖かく保温する(地面から冷える)
4.救助隊を待つ体制を作る
 イ.とりあえず安全で暖かい場所へ移す
 ロ.その後,ヘリコプターがくるなら適した場所へ移す
 ハ.空から発見され易い工夫をする
5.ヘリでなく,徒歩救助隊なら長時間待つ体制に変える (救助隊は要請を受けてから編成に2~3時間かかり, 出発してからも探すまでに数時間かかります。また, 暗くなると無理だから翌日と言う事もあります)
 イ.保温して温かいものを飲ます
 ロ.長時間寝るので下に敷くものを工夫する
 ハ.一晩分の非常食・水を準備する
 ニ.付き添いの人も保温・非常食・水の準備をする6.全員が残るのか一部は下山するのかを検討する

B. 救助要請班

1.現在地を確認する
 イ. (例)塔ノ岳山頂から大倉尾根を10分下ったところ
 ロ.地図にマーキングする
 ハ.標高を確認する
2.救助隊に伝えることをメモで整理する
3.救助を要請する
 イ. 携帯電話が通じるかどうか確認
 ロ.だめでも少し離れれば通じることがある
 ハ.場所が明確でヘリ要請なら消防119番。創作が必要で地上を友会うなら警察110番
 二.素性・場所・骨折らしい・動けない、くらいを手短に言ってから”救助をお願いします”と言う
 ホ.あとは向こうから順序立てて質問がくるからメモを見ながら答える。自分の電話番号は答えられますか?
4.形態が通じないときは、伝令を2人決める
5.伝言メモをつくる
 イ.口頭では取り違えます
 ロ.保険などの大切なことを聞き忘れて現場をはなれてはいけません
6.一番早く連絡できるところへ急ぐ(1山小屋の無線、2民家の電話、3携帯電話の電波)
7.電話連絡したあと戻るのは二重遭難の心配があるので良くない
8.2人ともそのまま警察へ行って伝言メモを直接渡す
9.一人は警察に残って処理と応対をし、もうひとりは救助隊に同行して道案内する

覚えておこう!遭難時に役に立つ6つのTips

  1. 保温の為には下に何を敷くかが重要です。ザックに枯葉を入れてふとんにする等,手元にある物で工夫しましょう。
  2. 体が濡れていると蒸発熱として体温が奪われます。風は体温を奪うからビバークの場所には注意しましょう。風速1m/s当り1°Cづつ体感温度が下がります
  3. 谷底やコルは夜間に山頂から冷たい空気が降りてきて溜まるから冷えます
  4. 山行中は休憩の度に携帯電話が使えるかどうか確認しておきましょう。何処まで戻ればつながるかが分かって無駄が少なくなります
  5. 怪我人のショックに配慮しましょう。“ひどい怪我だなあ”といわずに“たいしたことは無いよ”と言うのが回復に向かうコツです。悪い事は考えないようにします
  6. 通りすがりの人や山小屋の人を当てにしない。筆者としては、過去に善意を悪くとられて懲りているから、関わりたくないのが本音です

3.救助隊への連絡や、伝令に使える緊急連絡シート

連絡シートの見本は世の中にたくさんあるのですが、あらゆる場面を網羅しようとして詳細に過ぎることが多いです。
使う人を一般登山の入門者に絞って必要最低限の緊急連絡シートを作成しましたので、次の場面で活用していただければ幸いです。
1. 救助隊への連絡
2. 伝令の伝言メモ

緊急連絡シート

※山行時にはいつも2枚持っていきます。(一枚は伝令者が持って下り,一枚は現地の控)
※氏名・保険など分かる所はあらかじめ書いておきます。(遭難時には書けないかも知れない)

最後に

いかがでしたか?
遭難は、自分だけでなく様々な人に大きな心配や迷惑をかけてしまう行為です。そうならないよう、常に準備を怠らず気をつけることが第一ではありますが、万が一の際は本稿で説明したように、統制がとれ、節度と礼儀をもった遭難をするよう心がけるていただければと思います。

後編では、救助ヘリコプターについて知っておくべきこと、山岳保険の必要性、救助隊員への感謝についてお伝えしたいと思います。

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