みなさんは、登山において事故を未然に防ぐための原則をご存知でしょうか。
道迷いやケガ、天候の急変など事故につながる個別の要因は様々あり、それぞれ対策を講じることは重要ですが、それらの事故になるべくつながらないよう未然に防ぐための行動原則があります。
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それは、登山中の事故を未然に防ぐためには“自分の実力を越えた危ない場面へ踏み込まない”という原則です。
実力とは技術・知識・体力等の登山力と体調や心の余裕を指し、場面とは登山ルートの難易度・危険度や天候を意味します。
本稿は、登山中の事故を未然に防ぐために重要な7つの工夫についての後編です。(前編はこちら)
4.登山中の代表的な症状の予防法を知っておこう
目次
1)熱中症
高温・多湿・無風の日は要注意で、睡眠不足・発熱・下痢・疲労が加わったらかなり警戒しましょう。
手がむくんだり、唾が出なくなったら危険信号です。
通気性の良い透湿速乾素材の衣類を着用して必ず帽子を被りましょう。
スポーツドリンクには塩分やミネラルが体に吸収され易い濃度で入っているから、ハイドレーションシステムを使ってこまめに飲むと良いです。
2)低体温症
速乾性のある衣類や濡れても保温力のある衣類を工夫して重ね着し、“冷えない・汗をかかない”を意識してこまめに調整します。
糖質を中心とした行動食を少しずつ何回にも分けて食べましょう。
雪や氷を食べてもたいして水分補給にならず、溶かすためにたくさん熱を奪うのでエネルギーを浪費してしまいます。また、寒いからといって飲酒は厳禁です。
寒くなるまで休憩せず、大休止の時は予め防寒具を着ておきましょう。
3)その他
靴擦れ・マメ、のトラブルが多いので、靴選びに注意し、購入したら履きこなして足に馴染ませておくと良いです。
テント内では一酸化炭素中毒に気を付けて充分に換気しなくてはなりません。一酸化炭素は臭いや色がないから注意が必要です。
5.リーダーは状況を常に把握する
リーダーはコースを充分調べ、地元に問い合わせて予備知識を持たなければなりません。
エスケープルートを調べたり天気予報のテェックも必要です。
しかし、それで終わりでは無く、調べた予備知識を状況に応じて使い分けることが重要です。
入山してからはメンバーの様子を把握して異変があったら即座に対応し、危険箇所では指示を出せる場所に立ち、状況によってはロープを使いましょう。
歩いているルートが正しいかどうか常に気を配り、不安を感じたら自信ある所まで引き返すことです。
行動不能になったらメンバーを冷静にさせ、保温に留意し、体力の消耗を減らしてビバークや救助要請の準備に入りましょう。
6.困ったらそこにあるもので工夫しよう
登山はサバイバルゲームだから困ったらそこにある物で工夫しましょう。
靴の中が濡れたらなかなか乾かないで足元から冷えてきますが、クツ下を履き替えてもまた濡れてしまいます。
その時は新しいクツ下にビニール袋を被せて輪ゴムで止めておくと良いです。
濡れたクツ下はきつく絞って足首に巻き付けておけば、そのうち乾いて次の着替えに使えます。
日射の強い日に帽子を忘れたらタオルや下着の白い布を頭に巻いて代わりにします。
森林限界を超えると女性はトイレに困ります。我慢すると膀胱炎になるのでツエルトで囲って用を足しましょう。
思わぬ残雪トラバースに出会ったら、枝の先を尖らせればピッケルになります。
それも無ければ尖った石を両手に持ってピッケル代わりにしてでも、生きて帰ろうとする執念が必要です。
7.登山力を向上させる単独行を経験しよう
“単独行は駄目”というのは登山界の常識になっています。
山岳救助隊の人達からの啓蒙活動もあって、単独登山者の比率は全登山人口からみたら年々減少しています。
事故後の救援活動の上ではとても良い事ですが、登山者個々の登山力アップの面から見たら行き過ぎは問題と思います。
最近グループ登山の人達に質問したところ、単独登山未経験者が半数以上いて、理由を聞いたら“単独行は危険だから駄目なのでしょう”と答えるだけでした。
単に教条的に“単独行は危険”と言っているだけで、この真の意味を理解していないと思われます。
2人以上で登山すれば事故が起きないと錯覚しているようですが、それは間違いです。
一般登山に限定した場合“2人以上なら安心”というのは“事故が起こった後通報してくれるよ”というだけで、事故を起こさないためには何の役割もしていません。
数人グループで世間話をしながらの登山は、何かあっても上の空だから返って危ないのですが、私が問題にするのはそれではなく、果たしてこの登山が“経験”という血肉になって個人の総合登山力アップに撃がっているだろうか?ということです。
単独未経験者は安全なルートを選んで一度単独行をやってみましょう。
想像以上に真剣に立ち向かうはずです。
分岐点を通過して少し行ってから不安になって立ち戻り、指差し確認までするかも知れません。
しかし“登山をした”という充実感は大きく、総合登山力は間違いなくアップします。
グループ登山でも、トラブルがあれば単独で下山しなければならないことがあります。
その時、経験があるのと未経験では気持ちの面で大違いです。
ただでさえトラブルで動揺しているのに初経験の単独下山では落着いて行動出来ず、二次遭難の恐れがあります。
登山歴が幾らあっても、単独行の経験が無い者には安心してサブリーダー等の大切な役目を任すことが出来ません。
もちろん、単独行を奨励しているのでは無いから誤解しないで欲しいと思います。
勉強のために、安全なルートを選んで単独行の経験をすることは得るものが大きいということです。
最後に
いかがでしたか。
本稿で紹介した7つの工夫は、どれも登山力の基礎を底上げし、事故を未然に防ぐための基本的な手段となります。
登山における事故はいつ、誰に起きるかわかりません。また山の中で起きたトラブルは深刻な事態につながることも少なくありません。
日頃から事故を未然に防ぐための工夫は意識していくようにしましょう。
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当サイト「GoALP – 山を楽しむ人のための安心・安全登山メディア」の監修者でもあり、登山を教えることのできる者が集まった非営利集団で、山岳事故を減らすための啓発活動をしている日本登山インストラクターズ協会(2013年創立・岩崎元郎代表)が、来春より開催する6期目「JMIA登山講習会」の受講者を募集しています。あなたも、一年かけて実際に山に登りながら山岳指導者の手ほどきをうけてみませんか?
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