みなさんは、登山において事故を未然に防ぐための原則をご存知でしょうか。
道迷いやケガ、天候の急変など事故につながる個別の要因は様々あり、それぞれ対策を講じることは重要ですが、それらの事故になるべくつながらないよう未然に防ぐための行動原則があります。
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それは、登山中の事故を未然に防ぐためには“自分の実力を越えた危ない場面へ踏み込まない”という原則です。
実力とは技術・知識・体力等の登山力と体調や心の余裕を指し、場面とは登山ルートの難易度・危険度や天候を意味します。
本稿ではこの原則を踏まえ、登山中の事故を未然に防ぐために重要な7つの工夫について前編・後編にわけて解説します。
まずは、登山前にできる工夫から。
1.疲労と心の余裕を奪うストレスを緩和しよう
目次
ストレスは疲労に直結するだけでなく、心の余裕を奪ってさまざまなトラブルの原因を作ります。
ストレスとは強い刺激に適応し切れなくて一種の歪みを抱える状態です。
ストレスが掛かると、それに適応するために身体は抗ストレスホルモンを分泌します。
抗ストレスホルモンは精神的刺激で分泌するのですが、寒冷ストレスでも分泌します。
この寒冷ストレスは鍛錬して体を徐々に低温に慣らすことでかなり改善できます。
厳冬より寒さに慣れていない初冬の方が寒く感じるのはその証拠で、一年中半袖Tシャツで過ごす人は周りで心配するほど寒くないのです。
暑さの場合も同様で、暑い中で運動強度と時間を徐々に増やしていくと、一週間程度でかなり暑熱順化できます。順化出来ていない人が急に暑い中で運動すると熱中症になり易いです。
高度ストレスも同じなので、初冬にいきなり富士山へ登るとダブルでストレスが掛かると思って良いです。
精神的ストレスを緩和するのに出発直前のミーティングは有効です。
知らない人と登山に入るのはストレスになるので自己紹介はストレス緩和になります。
今日の行動予定が発表され、進行方向を全員で確認すると情報を共有するから、ストレスが和らぎます。
ストレッチは精神的ストレスだけでなく肉体的ストレスの緩和にもなります。
興味深いのはスポーツトレーニングで同じ抗ストレスホルモンが分泌され、繰り返すと徐々にストレスに対する抵抗力が付くということです。
登山等のスポーツや体力トレーニングをすると、初期のショック期から次の抵抗期までが繰り返され、適応してストレスに強い体になっていきます。
街のトレーニングでストレスが改善出来るとは有難いことと考えましょう。
2.余裕が大事!普段からトレーニングしよう
体力をつけ、技術を磨き、道具の扱い方に慣れて、日頃から登山力を上げておきましょう。
事故を防ぐだけでなく余裕をもって山を楽しむことが出来ます。
体力作りというと筋力だけを思い描きますが、肺活量やバランス感覚も体力のうちです。
年齢が上がると肺が萎んできて何もしないとそのままですが、過負荷を掛けると再び膨らんできます。
バランス感覚はトレーニングで上達するので、少なくとも自分自身を信頼できるところまで鍛えておきましょう。
自分に不信感を抱くと腰が引けてバランスを失い、スリップし易くなります。
岩登りの技術・救急法の技術(近日公開予定)・歩き方や地図読み等、登山に必要な技術はいろいろあって、それぞれの項目で詳しく記述しています。
大切なのは技術を体に馴染ませて、いざという時スムーズに使えるようにすることです。
雨具・ヘッドランプは必ず持っていく道具ですが、それ以外の道具は山行の都度判断しましょう。
今回の山行を頭の中でシュミレーションして考えるのです。
使い慣れない道具は無用の長物で軽量化に反するだけでなく、時には危険を招き込むこともあります。
また、その道具を携帯しているから安全だと思い込んでしまう勘違いも恐いのです。
使用技術が充分でない道具は持っていかない方が良く、それが無くては登れない山だったら行かないことです。
続いて、登山中にできる工夫です。
3.体調を維持するためには水分と食事にケアしよう
登山中の体調維持に大切な要素は酸素・炭水化物・水です。
食物と水を早めに小まめにとって疲れにくい体にして歩きましょう。
(参考)山岳指導者が教える、山でガス欠にならない食事と水のとり方
脳は重要な判断や、バランス感覚をつかさどって、登山中の事故に大きく関わる器官ですが、食べてから2時間くらい経つとエネルギーが切れて働きが鈍ってきます。
また、朝食べないで登山開始すると血糖値が低いままなので疲れ易くなります。
こまめに燃料補給することが重要で、食べる量や時間は人によって違うのだから、行動食を共同装備にしてはいけません。
登山では街の生活よりはるかに多くの水分を消費するから、失なわれた分はちょこちょこ補充しよう。
高齢者は水分バランスに対する耐久巾が狭く、脱水が命取りになりやすいのです。
行動中の補給だけでは足りないので、夜や朝に充分補給しておきましょう。
標高が高くなると気圧が下がるので“むくみ”が出るのは普通のことですが、気圧に関係なく“むくみ”が出たら脱水症状の表われです。“これ以上水分を出さないぞ”という体の防衛反応なのです。
しかし、水は一度にたくさん摂り過ぎないようにしましょう。
胃液を薄めて体調を悪くさせ、体液バランスを崩して筋肉ケイレンを起こしたり、血液中の水分濃度を一定に保つように体が反応して利尿による排泄を行ってしまうこともあります。
睡眠不足は心身共に大きなストレスの原因になり、疲労回復が遅れ、体の調子を崩し、危険に対する注意力が散漫になります。
また、睡眠は体調維持の重要な要素だから山行前には充分眠っておきましょう。
しかし“眠らなければならない”と頑張ると、返ってそれがプレッシャーになって眠れないことがあるため、気楽に考えた方が良いと思います。
山小屋で眠れない人がいるようですが、睡眠薬は翌日に残るから早出の時は止めましょう。
行動中フラついたら危ないです。
眠れなくても横になっていれば体は回復すると信じ込むしかありません。深刻に考えないで開き直ることです。
最後に
いかがでしたか。後編では、登山中におきうる代表的な症状の予防、リーダーの心構え、サバイバル技術、登山力を向上させるための単独行について解説したいと思います。
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当サイト「GoALP – 山を楽しむ人のための安心・安全登山メディア」の監修者でもあり、登山を教えることのできる者が集まった非営利集団で、山岳事故を減らすための啓発活動をしている日本登山インストラクターズ協会(2013年創立・岩崎元郎代表)が、来春より開催する6期目「JMIA登山講習会」の受講者を募集しています。あなたも、一年かけて実際に山に登りながら山岳指導者の手ほどきをうけてみませんか?
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