もう山でバテない!登山のための体力づくりと継続するためのコツ – 登山の教科書

登山力で重要なのは 1 に体力・2 に地図読み・3 に安全管理と言われているのはご存知でしょうか。技術とか知識とか経験とか言っても、まず体力が無ければ始まりませんよね。
 
強い体力を持つ人はバテ対策にあまり気を使わなくても快適に登山が出来るし、速いペースで一気に登ると雪崩などの危険から身を守る事が出来ます。

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また、筋肉痛・膝関節痛・山での怪我その他のトラブルにはトレーニングによる体力強化が特効薬のような防止効果をもたらします。さらに、筋力と併行して最大酸素摂取量を大きく鍛えれば、重い荷物を背負っても速いスピードで歩けます。健康保持・体型改善・ストレス解消あるいは仲間作り等の目的で山歩きを初めた人でも、 慣れて来ると「もっと上手になりたい」「もっと強くなりたい」と願うのは人情です。

このように、体力を強化することは登山において大きなアドバンテージを得られるだけでなく、リスクの回避にも大きく役立ちます。
 
しかし、努力もしないで強い体力が手に入ると考えてはいけません。体は過負荷をかけて疲れさせるとそれに相応して適応しますが、このことは苦しくて辛いのです。
 
そう考えると、記録狙いや勝負の掛かった他のスポーツと違って、一般登山のトレーニングで最も大切なのは動機付けではないでしょうか。
 
トレーニングの方法論や理論的解明をした本はありますが、一般登山者をトレーニングに駆り立たせる精神論の本はあまり見当たらないので、本稿では力を込めて取り上げたいと思います。

どうやってトレーニングを継続させるか – 動機づけの方法

はじめは軽い気持ちで、次第にやめられなくなったら勝ち

怪しいクスリではありませんよ(笑)
 
大概の人がトレーニングを思い立つと、気負いが先に立って大層な事を考えますが、トレーニングは気長に行うものだから、短期間で効果を上げようと焦ってはいけません。体が運動に適応する前に急いで激しくやると、体調を崩したり怪我や故障を招いたりします。また、飽きたり嫌気がさして止めてしまう人も多いのです。
 
雨が降った・陽射が強い・寒い・暑い・二日酔いだ・睡眠不足だ・熱がある、等トレーニングを休む自分への言い訳はいくらでも作れます。一日二日と休むうちに次第に再開するのが億劫になって止めてしまうのです。
 
トレーニングを長続きさせるには、初めを軽くして長期的な計画を立て、除々に増やしていくのがコツです。理由を付けて休みたくなっても認めず、反復の回数を減らしても良いから習慣は崩さないことです。そのうちに初め苦労した事が楽に出来るようになるから、自分を褒めてあげて御褒美を与え、除々に負荷を上げていきましょう。
 
自分で自分を騙し、もう一方の自分が喜んで騙されるようなゲーム感覚も必要です。肉体的には苦しいが精神的には楽しく、休むと後悔してストレスが貯まるようになればしめたもので、生活の一部として習慣になっていきます。

トレーニングのモチベーションを高める2つマインド

(1)高い目標を持つことでモチベーションを上げる

自分には少し難しいかな、という高いところに目標を定めて努力するのと、目標を低いところにおいて楽をするのでは結果において大きな違いが生じます。登山において熟達者と初心者の違いの一つは“自分の限界を知っているか”なのですが、何年やっても自分の実力を他人に尋ねる人がいます。限界に挑戦したことが無いから自分を把握できないのでしょう。
 
登山の原則ではパーティーの一番弱い人に合わせるから、最も弱い1人を除けば他の人は常に余裕があって、体力の限界で歩く機会がありません。自分の限界を知らないと登山計画が不必要に安全側に傾いてしまい、無駄で効率の悪いプランを作ってしまいます。また、トレーニングの効果を予測する経験がないと、大きな縦走を思い立っても、これからのトレーニングで可能になるかどうか判断出来ないから諦めざるを得ません。何か方法を考えて現在の自分の体力をシビアにつかんでほしいと思います。
 
そして、どれだけ努力すれば何ヶ月で何処まで向上するかを予測する力を養いましょう。安全な近郊の山で良いから重い荷物を背負って、速度を上げて、何時間持ち応えられるか試せば良いのです。重要なのは1人でやることで、他人と一緒だと互いに相手を気遣うから目的が達せらません。
 
今まで一度もつったことが無いとか、今まで一度もばてたことが無いと言うのは自分の限界に挑戦していない証拠だから自慢にならないのです。一流スポーツ選手のように体力がある人でも限界を越えれば足がつる。つるまでトレーニングして体力が向上すればもっと激しい負荷を掛けるようになり、その追い駆けっこに終りが無く引退する迄つり続けるのです。
 
つったという事は自分の体が“目一杯やっているよ”と言うシグナルを出しているのだから充実した山行をした証拠で、嬉しい事なのです。ちょっとつったから、あるいはつりそうな予感がするから、程度の段階で体を過保護に労わって、休んだり、その先を“ゆっくり歩き”に切替えたりする人を見かけますが、そんな登山を何回やっても足は丈夫になりません。
 
加齢による衰えは誰でもありますが、筋肉は鍛えれば老化しないのだから、健康を求めて山へ行くなら足がつるくらいにやりましょう!
 
安全に対する認識を持って自分の身は自分で護らなければなりません。その為には技術を磨くことですが、疲れると持っている技術が発揮出来なくなります。体力作りは安全面においても重要なのです。また、安全の為にゆっくり歩くというのは初心者のうちだけであって、危険地帯は出来るだけ早く通過する方が良いのです。
 
ここで急ぐことと慌てることは大違いなのですが、分かれ目は各自が経験の中から見つけるしかありません。最近の登山道は良く整備されていて、難所と言われる所も鎖やハシゴ等手足のホールドがしっかりついているが、気後れすると思わぬ事故を起こします。自信があればどんな場面でも平常心を保っていられるはずで、自信を持つ為には納得するまで努力するしかありません。

(2)周囲の人より劣っている事をモチベーションのバネにする

登山は心の健康に役立ちます。日常の雑事で疲れた頭をリフレッシュしてくれますし、登頂すれば強い達成感が得られます。ウォーキングやジョギングは飽きて三日坊主になりがちですが、大自然の中での山歩きは長時間続けても飽きないのが良いところです。
 
ところが、グループ登山で仲間より体力が劣る人は登山でストレスを貯めて家に帰ります。景色を見る余裕も無く、ひたすら前の人の踏み跡をトレースし続けて、自分のせいでスケジュールに遅れが出てはならないと気遣いが絶えません。この場合仲間がいくら優しく労ってくれても心の中にはストレスが貯まるばかりです。
 
肉体的にバテると苦しいし、精神的にバテると危険であり、自然に感動する余裕が無い上に仲間に負い目を感ずるようでは山歩きが辛くて詰らないものになってしまいます。こういう人のとる道は2つあって、1つはそのパーティーと一緒に行くのを諦めて、同じくらいの体力の人と易しい山狙いの別のパーティーを組むことであり、もう1つは街でトレーニングして体力を付けることです。

中高年は特にトレーニングを意識しましょう

中高年は人によっての体力差が大きくなります。60歳の体力は何もしないでいると20歳の時の半分に減ってしまうと言われます。年とったら誰でも体力が落ちるのだから、「山を楽に歩ける体を手に入れるために!知っておきたい筋肉と疲労のメカニズム(仮)」を研究して理論的で効率良い方法でこれを補うように心掛けましょう。
 
中高年登山者のトラブルで多いのは
  1. 筋肉痛
  2. 下りで膝ガク
  3. 膝の痛み
  4. 登りの苦しさ
であって全て筋力低下が原因です。
 
トラブルを起こした人を観察すると登山頻度が少なく、街でのトレーニングもほとんどしていないようです。1週間に1回程度登山をするか、ほとんど毎日トレーニングしている人はトラブルの発生が極端に少ないという統計結果もでています。トレーニングする人としない人の体力差は年齢が高くなるほど大きくなっていきます。

どのようにトレーニングをするとよいか – 体力づくりの考え方

登山のトレーニングで意識したい4つのポイント

筋力強化は科学的根拠に基づいて正しくやりましょう。その為の注意事項を挙げます。

 1 有酸素運動

呼吸しながらやると有酸素運動ですが、息を止めて力むのは無酸素運動です。それぞれ目的が違うから、自分が何をしたいかを考えて選ぶことが重要です。無酸素運動は筋肉を太くするのに効果があり、筋肉モリモリの重量挙げや相撲に適しています。有酸素運動は軽い運動を長時間やるもので、持久力が向上するから登山やマラソンに適しています。

 2 筋力 vs 持久力

重さを付加すると筋力の強化になり、回数を増やすと持久力の強化になります。目的を考えて工夫することが重要になります。鉄アレイを背負ってのスクワットが良い例で、初め苦しかったのが嘘のように楽に出来るようになって、物足りなくなった時どうするか。回数を増やすのか鉄アレイの重量を増やすのかは、その時の強化目的によって決まります。

 3 腹筋

登山ばかりしていると、背筋は益々強くなり腹筋は年々弱くなるから、バランスが崩れて腰痛が起り易くなります。腹筋強化は、やる気があればどこでも出来るのだから怠けないようにしましょう。

 4 目的意識

特異性の原則という言葉があって、「トレーニングした部分の能力は向上するが、それ以外の能力は向上しない」ことを言います。また、意識性の原則があって、「何処のトレーニングが目的なのか意識したほうが効果が上がる」といいます。

鍛えておきたい4つの筋肉

登山のトレーニングで山へ行ければ良いけれど、諸々の状況の中では難しいと思います。不足分を街で補うことになると思いますが、このトレーニングのことを補強トレーニングと言います。
 
補強トレーニングとして一般的には走る、泳ぐ、自転車をこぐ、階段の登り下り、スクワットなどが考えられるのでそれぞれの効果を研究して組み合わせ、生活の中に取り入れると良いと思います。
 
これらの方法はほとんどが心肺機能の強化に役立ちます。大腿四頭筋の場合は登りで使う“縮みの筋力強化”にはほとんどの方法が有効ですが、下りで使う“引伸ばしの筋力強化”には有効な方法がありません。唯一あるのは階段下りだが、歩幅が小さ過ぎて登山の実態に合いません。しかし、街にはこれしかないのだから二段下りにしたり、荷物を背負うかスピードを上げるかして工夫しましょう。
 
よく見かける筋力強化の方法を次に挙げます。初めは軽くして、楽に出来るようになったら回数を増やすか、重さを付加すると良いと思います。長続きさせることが重要です。

 大腿四頭筋

  1. “おもり”を担いでのスクワット
  2. 椅子に座って片脚を伸ばし、5秒間大腿四頭筋に力を入れる
  3. 仰向けに寝て片脚を30cm持ち上げ、5秒間維持する

 下腿三頭筋

  1. 直立して“かかと”を上げ下げする
  2. 石段の“へり”に足先をかけ、爪先立ちして静止する
  3. 足首に“おもり”を付けて歩く

 腹筋

  1. 仰向けに寝て上体を上げ下げする
  2. 仰向けに寝て、脚と上体を持ち上げ、50秒間静止する

大腰筋

  1. 仰向けに寝て、膝が腹につくまでゆっくり持ち上げる。左右交互に20回繰り返す
  2. ゴムバンドの両端を左右の足先に掛け、背筋を伸ばして片膝を高く上げる。左右交互に大きくゆっくり20回繰り返す

登山のトレーニングには工夫が必要

他のスポーツにはゴルフ練習場のようなものがあって実戦と同じように出来るのですが、登山には街でトレーニングする施設がありません。トレーニングジムへ行っても登山の分かるインストラクターは少ないから、各自で創意工夫するしかありません。
 
長続きさせる為には手軽に出来る事が良いので、スクワット・ストレッチ・腹筋運動・縄跳び・しこ踏み・片足跳び・爪先駆け足、などを組み合わせて楽しみながらやりましょう。
  • トレーニング用“おもり”を足首につける
  • 家では爪先立ちで歩く
  • 駅の階段は足先を引っ掛けるだけで登る
  • 高さ10cmのハイヒールを履く
等々皆さんいろいろ工夫していらっしゃいます。

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足腰だけでなく、握力・腕力も鍛えよう

昔から登山のトレーニングというと足腰を鍛える事ばかり語られてきましたが、最近の特に中高年はそれだけでは足りないようです。自分の体重を腕で支えられない人が登山するようになってきましたが、これでは鎖場の鎖が意味をなしません。万一足を滑らせた時は手で摑まって体を支えますが、握力と腕力が無いとぶら下がれません。本人はそれが分っているから自信が無くて恐怖を感じ、体がぎこちなくてバランスを崩し易いのです。
 
少なくとも30秒程度はぶら下がっていられる握力・腕力をつけてほしいと思います。30秒あれば新しい足場がつくれるはずです。登山は数時間に及ぶ持久力が必要な特殊スポーツで、栄養補給や老廃物の処理など内蔵の能力に関係する要素があったり、肉体や精神へのストレスに長時間耐えなければならなかったりします。
 
これらに対するトレーニングは街に直接的方法が無く、下りの為のトレーニング手段が街に少ない事と合わせて、“登山の為の一番良いトレーニングは登山である”という鹿屋体育大学教授山本正嘉先生の名言を最後の締めくくりにしたいと思います。

最後に

いかがでしたか。日頃からのトレーニングで強い体をつくり登山力をあげることは、登山中におこる様々なリスクを回避・低減できるだけでなく、精神的な余裕をもたらすことでより一層山歩きを楽しいものにすることができます。
 
トレーニング自体、はじめは楽しいものでは無いかもしれませんが、成長を実感することで逆にやらないことがストレスになってきますので、そうなるまで本稿で紹介したトレーニングのポイントや工夫の仕方を取り入れてみなさんなりのやり方で取り組んでみてください。
 

登山の総合スキルを体系的に学びたい方必見!

当サイト「GoALP – 山を楽しむ人のための安心・安全登山メディア」の監修者でもあり、登山を教えることのできる者が集まった非営利集団で、山岳事故を減らすための啓発活動をしている日本登山インストラクターズ協会(2013年創立・岩崎元郎代表)が、来春より開催する6期目「JMIA登山講習会」の受講者を募集しています。あなたも、一年かけて実際に山に登りながら山岳指導者の手ほどきをうけてみませんか?

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