正しい遭難の仕方があれば教えてください – 山の相談小屋

アクティビティ:一般登山, カテゴリ:事故時の対処
相談者:ゴロ助 (男性/50代)
登山仲間の知人が道迷いで遭難したことがあります。幸いにも一命はとりとめたものの、明日は我が身と思いました。
もし道迷いで遭難した場合、変な表現で恐縮ですが、正しい遭難の仕方というのはあるのでしょうか。
なるべく救助されやすい遭難のしかたという意味です。

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JMIA認定インストラクター
後藤 真一
2015年秋、大山~弘法山周辺で単独男性が道迷い遭難し、一ケ月後に残念ながらご遺体で発見されました。
携帯でご家族に「道に迷った」「どこにいるのかわからない」と連絡がありましたがその後おそらくバッテリー切れを起こし携帯電話会社のアンテナから具体的場所を察知することが不可能になりました。どのルートを辿ったかも登山届が出されておらず、ご家族にも「大山へ行ってくる」とだけ言い残して出かけられたため、まったくわからず、我々や警察の捜索も広範囲に渡ってしまい発見に至ることはできませんでした。
捜索救助する立場(ちなみに私は警察ではなく、要請あれば出動する遭難対策協議会救助隊です)から、もし道迷いを起こし、所属山岳会やご家族と連絡が取れた場合の留意点を述べさせていただきます。

1.焦らず落ち着いて状況を伝える

もし道迷いを起こし、携帯等でご家族や所属山岳会、地元警察などと 通話やメール連絡ができるなら、まずは焦らず落ち着いて、たとえ自分のいる位置が不明でも周囲の状況を冷静に伝えてください。

例)
・「水量は少ないが沢の中で、すぐ上流に5mくらいの滝がある」
・「沢は南に向かって流れている」 
・「植林帯の尾根の途中で平ら(または急)なところにいる」
・「右下の方に沢の音が聞こえる」
・「日の沈む(方角がわかれば具体的に)斜面側の中腹にいる」   
・「3時間前に○○山(最後に現在位置がわかっている所)を△△に向かって下りた」
・「左斜め下に町灯り(特定できる顕著な物があれば尚良い)が見える」(だいたいの距離や高度差がわかれば尚良い)
etc

以上の場所状況説明は遭難者から説明するばかりでなく、連絡を受けた人こそ、まずは遭難者を落ち着かせ、聞き出すようにしてあげてください。連絡中に電波が切れることもありがちなので、簡潔に。もちろんGPSやアプリが使えれば緯度経度や他の情報を伝えやすくなるかもしれません。

電話が繋がらなくてもメールやSNSが繋がることは案外あります。
これらの情報は我々捜索する側としても、場所を特定するために貴重な情報源となります。

2.その場にとどまる

携帯通話やメール連絡が取れた箇所から、焦って動かず、もし夜になってもそこでビバークの覚悟を決めてください。動き回れば体力を消耗するばかりか、転落滑落の危険もはるかに増します。また折角の携帯通話エリアから外れてしまいがちです。

まず自分の身体を保温することに努めてください。こういう不測の事態は起こり得るものなので、ツエルト(簡易テント)またはアルミ製のビバークシート1枚、レインウエア(レインウエアは何も雨避けの役割だけでなく 防寒着としてある程度機能するので、どんなに晴予報であろうが、ハイキングであろうが必携です)、方角がわかるコンパスと地図、非常食と飲料、そして携帯やスマホ用の予備バッテリーや乾電池式の充電器は常に携行します。※残念ながら今回の要救者は夜中に焦って動き回ってしまった形跡がありました。

サバイバルシート(防寒・保温)

アライテント スーパーライトツェルト

重量わずか280g(1〜2人用)の軽量タイプのツェルトです。ザックの片隅に入れておいて強風時、雨や雪の時の休憩、やむをえないビバークの時などに使用します。

3.バッテリーは極力温存する

携帯やスマホは山中ではバッテリーの消耗が下界より激しいので、もし連絡が取れたなら「次の連絡は明日朝6時にする」など連絡が取れた人と定時連絡時刻を決めて、特別な指示がない限り電源を切っておいてください。アプリやカメラを使われることが多いと思われますので、予備バッテリーや電池式充電器は最後の手段です。とにかく有事に備えバッテリー温存のことを配慮してください。

4.ご家族は、その山の管轄警察に連絡を

もしご家族や山岳会が下山予定日を過ぎてもお帰りにならない登山者の捜索を依頼する警察署は、その山の管轄警察です。たとえば大山なら秦野警察や伊勢原警察です。ご自分の住まわれている町の警察ですと、行方不明になった山の管轄警察といろいろ情報のやり取りなどがあり、一刻を争うかもしれない捜索救助活動の スタートに時間がかかってしまう恐れもあります。

5.目立つ色の服装は発見しやすい

今回の方の服装な公開捜索ビラにも掲載されましたが、紺色や黒色など 地味な色で、山の中では我々も探すのは非常に苦労しました。こんなことを言うとメーカーや販売店からお叱りを受けそうですが、有事に備えオレンジ、赤、黄などのウエアやザックが目立ちます。山でよく見かける猟友会の方はオレンジ蛍光色のベストを着ていますが、森の中や雪の中ではおそらく一番目立つ色かと思います。

6.山岳保険は必須、内容と連絡先を家族に伝えておく

山岳保険は、登山行為を行う人は、以前よりも加入するのが当たり前という考えは浸透してきました。(もちろん捜索救助費用給付きのものです) しかし案外加入はしているものの、それをご家族に伝えていない(したがってご家族はそういう保険に入っている事実を知らない)ケースが多いようです。特に単身世帯の方。

警察や消防など公共機関だけならほぼ無償ですが、捜索になると どうしても人手不足となり、我々のような救助隊が出ることもあります。そうなると有償です。また公共ヘリもほぼ無償(一部有償の流れあり)ですが、その際に空いていなければ民間救助ヘリが出ます。ヘリはよく1分1万円と言われますので、相応の金額がご本人またはご家族に請求されます。

それから遭難現場にたまたま居合わせた他パーティが、事故者を救助するために使った装備(ロープやカラビナ、スリング等)は損傷の有無に関わらず当然弁償しなければなりません。状況により救助に携わった他パーティの方々にも相応の謝礼を払うことが妥当でしょう。捜索救助付き山岳保険に入っていれば、後日それらを補填することもできます。ただし保険会社により給付できる内容とできない内容がありますので要確認です。

もし運悪く要救者がお亡くなりになって、ご家族に請求が来ても 山岳保険に入っていた事実を知らなければ、高額な請求に応じなければなりません。そうならないためにも、保険証券と連絡先、そして補償内容をご家族に伝えた方がよいと思います。

最後に

山岳事故は時代の波のように押し寄せる登山ブームとweb情報の氾濫により次第に増えています。自分の身は自分で守るために、事前に怠ってはならない防御策を是非実践していただきたいと思います。
解決相談者:ゴロ助さん
大変詳しい解説ありがとうございます。
非常に参考になりました。各方面にシェアさせていただきますね。

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