雪崩を理解するための雪氷の知識

雪山登山やバックカントリーでのスキー・スノーボードを楽しむ人たちにとって、常につきまとうリスクといえば雪崩です。2017年3月におきた、那須雪崩事故で高校生を含む8人の方が雪崩によって亡くなったことは記憶に新しいと思います。

斜面に雪が積もれば、それが雪崩れる可能性を排除することはできません。しかし、このリスクとうまく付き合い、雪崩に遭遇する(引き起こす)リスクを極力小さくするためには、その発生メカニズムを理解することが重要です。

先日、finetrack TOKYO BASE にて、法政大学 准教授で、雪崩事故防止研究会にて雪崩事故を防ぐための科学的知識と最先端の実践的対策を啓発する活動に従事されている 澤柿教伸先生を講師に迎えて開催された「雪崩に備え生き残るための雪氷の知識」のセミナーに参加してきましたので、そこで学んだことを広く共有したく、まとめたいと思います。

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雪崩とは

僕は雪が身近にある環境ではないところ(神奈川県)で生まれ育ちましたが、雪国で雪が身近にあるところで生活されている方でも、雪崩についての知識は意外にないと言います。

雪崩といえば雪が流れていく現象を想起される方が多いと思いますが、そもそも斜面に積もっているのであれば流れていくのが当たり前とも言えます。それなのに雪が流れていかないのは、その状態で雪が安定しているからです。雪崩はその安定が「破壊」されることで発生します。

よく雪崩に「遭遇する」と言いますが、それはもらい雪崩で、それよりも実際には自分たちが雪を破壊することで雪崩を引き起こすことによっぽど気をつけなければなりません。

雪が安定し斜面であってもとどまっている状態に、人が立ち入ることで安定性が弱いところを刺激し破壊することで雪崩が発生します。

積雪期であればいわゆる表層雪崩が、春先であれば全層雪崩が起きますが、今回の講習では特に前者についてどのような場合に雪が破壊されやすいのかを見ていきます。

そもそも、雪はどのように生まれるのか

まず基本的な知識として、雪と氷は別モノです。氷がとければ水になり、水が凍れば硬い氷となりますが、雪は水からはできません。では、何からできるかというと、水の気体の状態である水蒸気がいきなり個体になる際に雪となります。

つまり、水蒸気が結晶化することで雪が発生します。雪がとけると水になりますが、その逆はありえません。

スキー場にある人工降雪機も、おおまかには噴霧した水滴が冷やされ氷の核となり、そのまわりの水蒸気が結晶化することで雪になるという原理です。

雪は天からのメッセージ

この言葉は、世界で初めて人工雪の製作に成功した中谷 宇吉郎の言葉です。つまり、降ってきた雪の状態を見れば、上空の状態、天気がどのようなものであったか読み取ることが可能であるということを言っています。

実験で湿度や気温といった条件を変えると、生成される雪の結晶の形もそれに応じて変わることがわかっています。これにより、逆に積もった雪の結晶を見ることで空の状態がわかるということです。

中谷ダイアグラム

例えばきれいな樹枝状の雪の結晶は-20℃くらいで湿度をたっぷり含んだ空気から生まれる雪で、四角柱の結晶は乾燥した空気から生まれるので、例えば朝から昼にかけて結晶がこのように変化していれば上空の状態がどのように変化したかわかります。

また、雲粒とよばれる小さなチリがついた、見た目が決してきれいでない雪の結晶もあり、この雲粒がついている雪は積もったときの結合力が強く、安定した雪となります。雲粒については雪崩を理解するうえで重要な要素といえるため、のちほど解説します。

雪質の種類

雪の結晶の形は上空の状態によって変わりますが、地上に積もった雪は時間や条件とともに変化します。変化のしかたには3種類あります。

1つ目が、降ったばかりの新雪が圧密・焼結してしまり雪になっていく変化で、温度変化を伴わないので等温変態といいます。降ったばかりの枝が多い雪の結晶は結晶が尖っているのでそれほどくっつきませんが、それが丸みをおびてくっつき、締り雪になります。

2つ目が、融解(雪が解けて水になる)と凍結を繰り返す変化で、いわゆる春先にみられるざらめ雪がこれになります。これは融解変態といいます。

3つ目が、しもざらめとよばれる雪で、「ザラメ」とつきますがざらめ雪とは全く異なります。これは積雪中に大きな温度差が生まれることで生成される雪の種類です。そのため温度勾配変態といいます。

まとめると以下の図になります。

雪崩教本より

雪崩の発生要因としてこのしもざらめを理解することは重要ですので少し詳しく説明します。

しもざらめはどのようにできるのか

雪が積もると、実は雪の中には保温効果が発生します。これはダウンジャケットやふとんと同じで、ふったばかりの新雪は空気を多く含むため、そこに日中に日射を受けると雪の中の空気が暖められます。ちなみに今年の記録的な少雪により北海道では農作物に影響がでると言われています。雪が積もることで得られていた保温効果がなくなり、雪がないことで逆に寒くなってしまうからです。

日中温められた積雪中の空気が夜放射冷却などで気温がぐっと下がると、積雪の上面が冷やされ積雪層の中で温度差が生まれます。すると、温度の高い層にあった雪からの昇華蒸発で発生した水蒸気が温度の低い層に移動する過程で冷やされ、凝結(気体から固体への変化)することで、霜が発生します。

これがしもざらめ雪で、積もった雪が温度変化で勝手に変化した雪といえます。このしもざらめは、雪崩を誘発する「弱層」となります。

ちなみに霜というのは空気中の水蒸気が冷やされてできるもので、冷凍庫につく霜も水が凍ったわけではなく、庫内の水蒸気が結晶化したものです。同じように、積雪面付近の水蒸気が冷やされてできるのが表面霜とよばれる雪です。

なお、関東などの寒い朝に土の中にできる霜柱は「霜」とつきますが、これは地表の水分が凍ってできたものです。

雪質の分類まとめ

新雪、締り雪、しもざらめ雪など雪質は次の9種類に分類されます。(結晶写真はいずれも雪崩教本より引用)

新雪 (new snow)

積もってから数日程度で、雪の結晶の形を残している状態の雪をいいます。

こしまり雪 (lightly compacted snow)

新雪としまり雪の中間で、雪の結晶の形はのこっていない状態。

しまり雪 (compacted snow)

こしまり雪がさらにしまって丈夫になった状態。

ざらめ雪 (granular snow)

とけるなどして水分を含んだ雪どうしが再凍結した状態。

こしもざらめ雪 (solid-type depth hoar)

しもざらめになる手前の霜の結晶ができ始めた状態。結晶の形としては平らな面が形成されるのが特徴。

しもざらめ雪 (depth hoar)

霜の結晶がさらに発達した状態で、結晶の形としては階段状の模様ができるのが特徴。

表面霜 (surface hoar)

空気中の水蒸気が凝結してできた霜。放射冷却で表面が冷えた夜に発達する。

氷板 (ice layer)

融雪水や雨水がたまって氷化した氷の板。

クラスト (crust)

表面付近にできる硬い雪の層。成因により、サンクラスト・ウインドクラスト・レインクラスト・メルトフリーズクラストなどがあります。ウインドクラスト以外はいずれも融解変態といえます。

弱層の種類

弱層とは、積雪内で相対的に雪同士の結合力が弱い層のことをいいます。このような層になにか衝撃が加わると、雪の結合が破壊され、そこをすべり面として雪崩を誘発します。

弱層には大きく霜系、降雪系、融解系の3つがあります。

霜系の弱層

霜系は、こしもざらめ雪、しもざらめ雪、表面霜がそれに該当し、いずれも建物で例えるなら弱い柱みたいなもので、その上にしまったしっかりした雪が積もると、弱い柱の上に重い天井が乗っかっているような状態となります。

前述の通り、霜系の雪は日射や放射冷却などの影響で温度勾配が発生した場合に生まれます。積雪内で発生するこしもざらめ雪・しもざらめ雪と、表面に発生する表面霜があります。

積雪内

古い雪の上に新雪が積もり、その後晴れて新雪内に日射が吸収されることで温度が上昇し、さらに放射冷却で上部が冷やされ積雪内に温度差が発生し、積雪内の水蒸気が冷やされて霜の層ができ、そこが弱層となります。

表面

放射冷却で雪面と空気の温度差が大きく、かつ湿度が高くて風が弱いと表面霜ができやすく、このうえに雪が積もると弱層となる。

降雪系の弱層

雲粒がついていない、きれいな結晶の雪は雪同士の接点が少ないため結合力の弱い雪となります。この雪がまとまって積もると弱層になります。また、コロコロとしたあられも見た目通り結合力が弱いため弱層となります。

雲粒なしの結晶(雪崩教本より)

雲粒なしの結晶(雪崩教本より)

反対に、雲粒つきの結晶は接点が多くなり、結合力のあるしっかりとした雪となります。

雲粒ありの結晶(雪崩教本より)

雲粒つき/なしの雪はどのように作られるか

雲は、地上からみると一枚のシートのようにみえますが、実際に横から見ると縦方向に背が高いものです。その中で常に空気は縦方向にぐるぐると対流していて、上に行くと水蒸気が冷えて雪になり、それが下に来たときに解けずにいると雪となって地上に降りますが、このぐるぐると対流している間に空気中のチリを取り込んだものが雲粒となります。

つまり、縦方向に背が高いような活発な雲になるほど雲粒つきの雪となります。

日本海でたっぷり水分を含んだ空気が日本の脊梁山脈にぶつかってできる雲は、冬になると日本海側に雪を降らせますが、この雲も背の高い雲です。

低気圧の通過に伴う弱層の形成

温かい空気に冷たい空気が潜り込むときにできる寒冷前線付近では急激な上昇気流がおき、活発な雲ができやすいので雲粒がつきやすく、しっかりした雪が降ります。

反対に冷たい空気に温かい空気が乗り上げるときにできる温暖前線付近では、ゆるやかな上昇気流となるためしんしんと雪が振り、きれいな結晶の雪となります。

低気圧の右側に温暖前線が左側に寒冷前線が伸びるので、低気圧が通過する際は最初にしんしんとした雪がふり、その後に雲粒つきの急激な雪が降ります。すると、結合力の弱い雪の上に、結合力の強いしっかりとした雪が積もる事になり、雪崩を誘発しやすくなります。

那須の雪崩事故もまさにこのような状況で起きたものでした。

融解系の弱層

いわゆる濡れざらめ雪となったあとに積雪があった場合となります。

濡れざらめ雪の弱層が形成されるのは、日射や急激な温度上昇などで積雪表面の融解が進み、隣の雪粒とのつながりが少ない粒状の濡れたざらめ雪になり、そのうえに降雪があった場合です。

濡れざらめ雪の上に新雪がつもると、保温効果により濡れざらめ雪はなかなか再凍結せず結合が弱い状態が維持されまます。

弱層の寿命

降雪系の弱層、つまり雲粒なしの雪の結晶は比較的短時間で圧密されて結合力が増し、安定したしまり雪に変化するため弱層としての寿命は短いといえます。

一方で、しもざらめ雪は50日たっても結合力が増さないのでとてもやっかいな弱層となります。

表面霜は寿命が長い場合と比較的短い場合があるようです。

このことから、弱層がいつできたのかを把握・推測することは雪崩を回避するために重要なファクターとなります。

雪の状態を推測するのに役立つサイト

以上、雪崩を理解するための雪に関する基本的な知識でした。

降った雪は天からメッセージ、つまり上空の天気の状態でどのような雪が降るのかという話と、積もった雪はその後の環境変化で状態が変化するということ。それによって、どういう場合に雪崩が起きやすい弱層が形成されるのか、ということに関する基本的な知識を理解しておくことが重要です。

それにより、例えば週末に山に入るのであれば少なくともその2,3日前からその山の雪がどういう状態にあるのか想像することは非常に大切です。

最後に、それを読み解く上でとても役に立つ情報をネット上で入手できますので、参考までに紹介いたします。

Windy

風の向きや強さを調べることができます。それを調べることで、たとえば風下はどちらになるのか、風下には風で砕けた雪がたまっている、いわゆるウインドスラブがどこに形成されるのかを予測するのに役立ちます。

ウインドスラブ自体は安定した雪ですが、弱層となる降雪結晶や霜の上にウインドスラブが形成されると、衝撃によりそれらが破壊され雪崩れるリスクをはらみます。

なお、windyはスマートフォンアプリも提供されています。

気象庁

気象庁のサイトでは過去1,2ヶ月分の天気図を参照することができます。これにより、低気圧や前線の通過を確認でき、温暖前線の通過に伴う雲粒なしのきれいな結晶の積雪と、その後の寒冷前線通過に伴う雲粒つきのしっかりした降雪による弱層形成を予測するのに役立ちます。

Powder Search!!

観測地点の観測項目(項目は地点毎に異なりますが、最大で気温・降水量・風向・風速・日照・積雪深・新雪量の7項目)について、最近3日間/1週間/2週間の1時間毎の推移を確認することができます。

日射や放射冷却といった温度勾配による弱層形成の予測に役立ちます。

日本雪氷学会北海道支部 雪氷災害調査チーム さっぽろ積雪の情報

札幌周辺に限られますが、積雪の情報を取得することができます。気温・風速・降水等の情報とともに積雪各層の結晶写真を掲載しています。

雪の状態を予測するためのトレーニングとしても役に立ちます。

最後に雪崩に関する知識や実際のリスクマネジメントについて知識を得たい方は、雪氷災害調査チームと雪崩事故防止研究会編の「雪崩教本」がおすすめです。

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