仲間を守る!登山で絶対知っておくべきケース別のトラブル応急処置

万が一、登山中に事故が発生して仲間がケガを負い動けなくなってしまったら、あなたはどうするでしょうか。なんの予備知識もないと、その場で右往左往して何もできずに事態はより悪化するかもしれません。

登山は、事故を起こさないよう様々な対策や準備をして臨むのが第一ですが、万が一に備えて適切な知識を持っておくことは、仲間のためにもさらには自分の身を守るためにもとても重要になってきます。

本稿では、そのような山でのトラブルの応急処置について、ケース別の対処法について説明したいと思います。

ケース別応急処置の方法

1.外傷

まず止血します。現在の救急法ガイドラインでは傷口にガーゼや布を当てて直接押さえる直接圧迫止血法だけが採用されています。
手で強く圧迫し、不充分なら両手で圧迫し、更に体重をかけて圧迫します。
圧迫し続ければ血液が凝固して出血が止まります。

昔は動脈が浮き出ている止血点を押える間接圧迫止血法がありましたが、今は採用されていません。
最先端の外科医は消毒薬は駄目と言っています。毒菌を全部殺せるわけでもないのに、良い働きをする生体液まで殺してしまうからです。
人間の体には強い防衛本能があって、怪我を治そうとして生体液が送られてくるから、大いに活躍して貰おいましょう。

ガーゼを当てると生体液を吸い取ってしまうから良くないです。
生体液を拭いたり乾かしたりしても駄目です。
傷口を水で洗った後ラップ用セロハン紙で覆い、密閉して傷から出た生体液を閉じ込めたまま数日おいた方が治りも早いし、綺麗に治ります。
ハイドロコロイド等の専用被覆材が市販されているので、登山の救急用品として持って行きましょう。

山では水が貴重品だから、ペットボトルのキャップにキリで穴を開けた物を使って水圧を利用すれば、少量の水で強い洗浄力が得られます。

大怪我をしたら直ぐにレスキューシートでくるんで空気と接触を絶ち、感染症を防ぐことが肝要です。
感染症にかかったら3時間以内に医療機関で手当てしないと、雑菌が天文学的に増えてしまいあす。傷の治療より感染症の治療の方に日数がかかるケースがよくあります。

2.ねんざ・骨折

ねんざと骨折はレントゲンを撮らないと見分けがつかないので、山では共通の応急処置だけにしましょう。
まず速やかに冷やす事で、アイシングをするとしないでは怪我の程度や治りの速さが随分違います。
冷たい水が大量にあれば浸けたりかけたりするのが良いですが、水が無ければコールドスプレーを吹きかけるます。サロンパススプレーは冷やす効果がないので注意しよう。

冷やした後は副木を当てて圧迫固定します。テーピングテープや三角巾が無ければタオルや細引でも良いから、ある物で固定します。
副木には折り畳んだ新聞紙やストックや木の枝、等その辺にある物を利用します。

患部が足首の時は、まだ歩かなければならないので靴を履いたまま上から固定します。
ストック2本とテーピングテープを使って松葉杖を作る方法は練習しておいた方が良いと思います。
手の骨折の時にポリ袋を使って腕を包み、体に縛り付けて揺れを防ぐ方法もよく行われています。

骨折の場合、上から見えなくても皮下出血があって水分がたくさん消費されるから充分補給しよう。
捻挫の場合、1週間くらいは揉んだり動かしたりしてはいけません。
伸びた靭帯が元の状態に復帰しなくて、ゆるんだ靭帯になってしまいます。

3.筋ケイレン

こむら返りのことで一般には“つる”という言葉が使われています。
つると激痛が頭の芯まで突き抜けて、寝ても伸ばしても何をしても駄目ですが、しばらくすると治ってまた普通に歩けます。

つったら最初にさすります。次に揉み、その後叩いて血流の流れを良くし、疲労物質を出します。
最後に引っぱるのであって、いきなり伸ばすのはダメージが大き過ぎて良くないです。

ふくらはぎがつった時、両足を揃えて背中から押したり、太腿の時正座して後ろに反らせたりしていますが、これは患部を伸ばす治療だからつった直後にやらない方が良いのです。
また、急に強く叩いたり強く揉んだりするのは筋組織へのダメージが大き過ぎるので止めましょう。
筋ケイレンは筋力不足が主たる原因だが、寒さや水分不足も関係します。水分と塩分の補給も忘れないようしよう。

4.脱臼

脱臼とは関節から骨が外れる事で、肩関節が最も多いですが、肘、指、足、股の場合もあります。
骨折や組織の損傷があるかも知れないから、みだりに整復してはいけません。
病院に行かずに放置すると機能障害が残り、整復後も正しく養成しないと習慣性脱臼を起こします。
山での応急処置としては先ず、濡れタオルで患部を冷やして安静にします。
次に三角巾かタオル等で吊包帯をします。
そのあと揺れを防ぐ為にテーピングテープで体ごと縛り付けます。

5.過換気症候群

発作的に苦しんで、激しく呼吸し始めたら過換気症候群です。
敏感な人がストレスを貯めた時に起こり易いです。
自律神経が機能しなくなって呼吸できないのだから、意識によって呼吸をコントロールすればだんだん治ってきます。
患者が信頼を寄せている人が対座して深呼吸して見せ、患者にも真似させるように指導すれば治まることが多いです。この場合は吸う事より吐く事を強調しよう。

これで駄目な時は袋を口の近くに寄せて、吐いた息の多くを戻すようにすればほとんど治ります。

6.やけど

いっときも早く冷やす事です。水や雪などで最低5分以上は冷やし続けましょう。
水がたくさんある時は直接かけ続ければよいのですが、水が少ない時は濡れタオルを当ててその上から水をかけます。

長時間高温の液体に触れていると重症になるので、衣服越しの液体によるやけどは注意が必要です。
充分な水がある時は脱がさないで衣服の上から水をかければ良いですが、水が少ない時は衣服を脱いでしまった方が良いです。

細菌感染の恐れがあるので、汚れた手や土などに触れないようにしましょう。水疱は潰さない方が良いです。
大やけどの時は患部から水分が失なわれていくので、水分と塩分を補給します。

高温の空気を吸い込むと気管支を損傷し、放っておくと数日後に呼吸困難になる恐れがあります。
自覚症状がなくても病院で検査した方が良いです。

7.凍傷

手指の感覚が無くなってきたら、叩いたり、動かしたり、手袋の中で握り拳を作ったり、手袋ごと腋の下に挟んだりしましょう。足指の感覚が無くなってきたら、動かしたり、足踏みしたり、歩いたりしましょう。

濡れている場合は危険だから手袋は予備品に取り替えるのがよいですが、靴の中は困るので、水が入らないように気を付けましょう。

凍傷の手当はぬるま湯に浸けるか温湿布することです。しかし、足の凍傷を手当すると腫れて靴が履けなくなることがあるから、今後の行動との兼ね合いを考えなければなりません。

一度凍傷になった部分は再びなり易いから注意しましょう。
鼻はカチカチに凍るが血液が多いので深刻な凍傷にはなりにくいです。

8.雪目

紫外線による目の日焼けで、たいてい夜になってから症状があらわれ、翌日まで続きます。
光に敏感になって鋭く痛むので、目を開けていられません。
手当は冷やす事で、時間の経過と共に自然に治るのだが翌日の行動に差し支えるのが問題になります。

9.スズメバチ

ハチの習性は集団で襲うものであって、一匹だけで攻撃してくることはありません。
初めに近寄ってくる一匹は攻撃にきたのではなく、巣を壊す外敵か善良な市民かを偵察に来たのです。
ここで我々は善良な市民であることを示してやらなければなりません。

静かにじっとしていて、ハチが関心を示さなくなって遠ざかったら、ゆっくりその場を離れれば良いのです。
手で払ったり、棒を振り廻したり、大声で騒いだり、慌てて逃げたりすると敵と見なして攻撃に転じ、仲間にも合図を送って集団で襲ってきます。

グループ登山で誰か一人が敵と見なされるとグループ全員が襲われるから、メンバーに周知しておきましょう。
ハチは黒い物を攻撃するようですが色盲で白黒の判断しか出来ないから、黒に限らず赤でも青でも色の濃いものを優先的に襲います。

目線より下は見えないらしいから姿勢を低くするのも良いです。顔面・首・頭部は絶対に刺されないようにカバーしよう。

毒液は水に溶け易いので、刺されたら流水で患部を洗い流し、傷口を摘み上げるようにして毒と血液を一緒に絞り出します。

普通の体質の人なら刺されても死ぬことはないから、過度に怖がらないで悠然としている方が良いと思います。
その方が攻撃される可能性が少ないのです。

しかし、過去に刺されたことのある人は体が過剰に反応して重症になる場合があるから、可能性のある所へは近寄らないことが重要です。

10.マムシ

体長60cm弱で太く短かく、黒渇色の銭型模様が左右交互に並んでいます。
夜行性だが昼間も活動します。おとなしいヘビで自ら攻撃する習性がないから、踏んだり掴んだりしなければ安全です。

50cm位しか飛び掛れないから1m以上離れていれば大丈夫です。
噛まれると激痛が走りますが、重い症状が出るまでに数時間かかるから、その間に処置しよう。
まず、毒が体に回らないように傷口より心臓側を三角巾か紐で縛るとよいですが、きつく締め過ぎないようにします。指一本が入るくらいで良いです。

次に傷口を水で洗い、血液と一緒に毒液を吸い出します。これを何回か繰り返します。
そして傷口を心臓より低くして医療機関に搬出し、血清注射を打ってもらいます。
血清は大都会の病院より地方の病院の方が揃っていることが多いです。

ヘビの種類によって血清治療が違うから、噛まれたヘビの特徴は記憶しておきましょう。
出血量が増え、感染症の恐れがあるから傷口を切開してはいけません。
走ったりして血行を良くするのもいけません。冷やすと悪い結果を招きます。

11.ヤマカガシ

体長 1m 前後で赤褐色の体に黒い斑点があり、首筋が黄色。
マムシと同様攻撃性がな いから直接刺激しない限り噛まれることはありません。
噛まれても痛みが少なく、症状が出るまでに数時間かかり、マムシより毒性が少ないから医療機関に運んで血清注射を打ちましょう。

12.熱中症・低体温症・高山病・脳卒中・心臓病・食中毒・下痢

『山での病気対処法』で詳しく解説します(近日公開予定)

意識障害、呼吸停止、心停止に陥ったら

心肺蘇生法は傷病者が意識障害・呼吸停止・心停止、に陥った時直ちに気道を確保し、必要に応じて人工呼吸と心臓マッサージをする救命処置のことを指します。
2005年に救急法のガイドラインが変わって、脈は診ないことになり、間接圧迫止血法が無くなって止血は直接圧迫止血法だけになりました。

心肺蘇生法を手順に従って示します。

1. 意識の確認

先ず声掛けをし、次に軽く叩きます。殆んどの場合ここまでで反応があります。
第三者に殺人行為と勘違いされては困るから、首に手を当てたり口を塞ぐような動作はしない方が良いです。
呼吸をみるなら頬を寄せて調べます。

2. 嘔吐物を掻き出す

安定した傷病者の体位は仰向けですが、嘔吐が予想される場合は側臥位をとってください。

3. 気道確保

意識の無い人は舌が“のど”を塞いで呼吸できなくなります。
これを防ぐのが気道確保で、左手を傷病者の“ひたい”に当て、右手の2本指で傷病者の“あご”を上げます。

4. 人工呼吸

1回に1秒かけ、大きく2回息を吹込みます。
ウィルス感染の心配があるからポケットマスク等の吹込み用具は救急用具の中に入れておこう。
ガイドラインでは用具が無い場合は人工呼吸を省略しても良いことになっています。

5. 心臓マッサージ

乳頭と乳頭を結んだ線の真中が圧迫点だから、ここに手の平の硬い所を当て、4cm~5cmへこむまで押します。
腕を曲げず1本の棒のように真っ直ぐにして、両手を重ねて体重で押します。少し早めに30回やります。

6. 人工呼吸2回&心臓マッサージ30回を繰り返す

いつまで繰り返すかについては臨機応変としか言いようがなく、街では救急隊が到着するまでが普通ですが、山でその見込みが無い場合は周りの人達が納得してくれる頃合が潮時でしょう。
見殺しにしたと言う噂がたっては困ります。

なお、救急法のガイドラインがまた変わる話がでています。
一般用レスキューでは人工呼吸をしないで、心臓マッサージだけを連続してやることになりそうです。
人工呼吸や心臓マッサージの回数を含め、心肺蘇生法は時代と共に変化するから、注意して最新の情報を得るように心掛けるましょう。

搬出

事故が起こったらその場所が安全かどうか考えましょう。
落石や滑落の危険があるなら一旦安全な場所に移してから、救助を要請するのか自力で下山するのかを判断します。

救助を要請する場合はヘリコプターのピックアップポイントか救急車両が入る林道までグループで運ばなければなりません。

広い登山道ならツエルトで担架を作って6人か8人で運べば楽ですが、狭い道の時は背負うしかありません。
この場合は介護者と傷病者をテーピングテプで固定すると相方共負担が軽くなります。

傷病者の上げ下ろしや背負う人を交代する時は何人かが補助して、傷病者の苦痛を和らげます。
仲間だけで背負って下山しようと思ったら、メンバーの体力と知識の程度をよく考えてから判断した方が良いと思います。

難しいシステムを講習会で習っていても実際の場面では忘れてしまって殆んど使えません。
ソウンスリング1本でやる簡単な方法を一つだけで良いから確実に覚えておきましょう。

救助隊の人達はザックを使った背負い方とか、いろんな方法を各自で工夫していて、講習会等で教えますが、救助隊に入るのでなかったら遊び程度に聞いておきましょう。

中高年者の体力で仲間を背負って下山するのは無理に近いと思います。
試しにどこかの山でやってみたら分かりますが、10分続けるのも苦しいです。
背負う方法だけ知っておいて、若い人が通ったらやって貰う方針に切り替えたらどうでしょうか。

足の捻挫程度の怪我だったら、ストック2本で松葉杖を作って自力で下山させます。
長さを調節してV字形に組み合わせ、腋の下の部分と握り手の部分をテーピングテープとタオルで加工すれば良いのです。

最後に

いかがでしたか。
万が一の事態に備えて、トラブル対応の知識をつけておくことは大切な仲間を守ることにつながります。
本稿に記載した内容はメモにして山に携行するのも良いかもしれませんね。
みなさんが、安心して登山を楽しめるよう願っています。

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※この記事に記載されている内容は最新ではない可能性があります。救急法のガイドラインや心肺蘇生の方法などは随時更新されています。常に最新の情報を入手するよう心がけて下さい。

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