山登りで覚えておきたい天気と行動に関する基本知識 – 登山の教科書

山での行動に大きく影響する要素といえば、天気ではないでしょうか。

晴れていればなんてことはない山でも、ひとたび雨がふったり風が吹いたりすればとたんに難易度があがり、転倒や滑落の危険が増します。また、天候に応じた服装の用意がないと、夏でも雨に降られて低体温症になるなどのリスクもあります。

天気に関する知識を持つことは、こういった事態への備えになるとともに、山で適切な行動をとるための判断の精度を高め、より安心して快適な登山をするための手助けとなります。

そこで本稿では、登山でおさえておくべき天気に関する基礎知識と基本的な行動指針を解説したいと思います。

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天気に関する基礎知識

1、雲

雨は雲が降らせますが、雨の降り方は雲がどれだけ発達するかに左右されます。雲が広がっていると長い時間降り、狭い範囲に背の高い雲が発達していると短時間に強い雨が降ります。

太陽で熱せられて、地面や海面に近い所は空気の温度が高くなり、周囲の空気より軽くなって次第に上がっていくのを上昇気流と言いますが、上昇気流は上に行くに従って周りの空気に冷やされて温度が下がります。一方、空気が含むことの出来る水蒸気の量は温度に応じて決まっているので、冷やされると過剰な分が気体でいられなくなり、水の粒になります。これがたくさん集まると雲になります。

上昇気流は日射によるほか、山の斜面に風がぶつかって吹き上がったり、低気圧の中心で行き場に困った風が上昇したり、台風に依ったりして起こります。上昇気流があっても空気が乾いていれば雲は出来ません。高い山では晴れていても昼頃に谷風が起こって雲が発生しますが、稜線を超えて反対側に下りて行くと消滅します。

「十種雲形」というのは分類した雲の種類で、兼好・漱石というゴロ合わせで覚えると良いのですが、高い所に出来る雲から順に、以下の十種になります。

巻雲(すじ雲)

巻積雲(うろこ雲)

巻層雲(月のかさの雲)

高積雲(ひつじ雲)

高層雲(おぼろ月夜の雲)

乱層雲(雨雲)

層積雲(層状かロール状の大きな塊)

層雲(雲海)

積雲(綿雲)

積乱雲(入道雲)

低気圧が近づくと最初に現れるのが巻雲・巻積雲で氷の粒からなっているから朝日や夕日に当るとオレンジ色に輝きます。低気圧が更に近づくと高積雲・高層雲となって雲の厚みを増し、最後に乱層雲となって雨を降らします。

2、低気圧・前線

周囲より比較的気圧の高い所が高気圧・低い所が低気圧であって、ヘクトパスカルの数字で分けているのではありません。気圧が高い低いというのは空気が濃いか薄いかということで、空気は同じ濃さになろうとして濃い方から薄い方へ移動します。これが風であり、高気圧と低気圧はセットになっています。

低気圧では周りから風が吹いてきて中心に集まり、行き場の無くなった風が上昇気流となって上がっていきます。日本を通る冷気圧のほとんどは温帯低気圧と呼ばれるもので、暖かい空気と冷たい空気が混っています。この両方が中心に向かって吹き込むとぶつかり合う所が出来、その境目を前線といいます。

暖かい空気が優勢の場合が温暖前線で、冷たい空気が優勢の場合が寒冷前線です。温暖前線では、暖かい空気は力が無いから冷たい空気の上にフワッと乗り上げ、ゆっくり上昇していきます。この時は広い範囲で雲が出来て、前線の前で雨が降り、 しとしとと降り続きます。

寒冷前線では、冷たい空気は力があるから暖かい空気の下に潜り込んで、下から持ち上げます。この時は厚い雲が狭い範囲に出来て、前線の後ろで雨が降り、 雨足は強いが早く止みます。

3、気圧配置

夏は日本の南東側太平洋上に大きく高気圧が張り出し、大陸の方が気圧が低いので南東の風が吹きます。これが夏型気圧配置です。冬は大陸の高気圧が強くなって北西の風が吹き、 西高東低が冬型気圧配置です。春は高気圧と低気圧が交互に日本付近を通過しますが、冬の 偏西風(ジェット気流)がまだ強く残っているのでスピードが速く、“春に 3 日の晴な し”といわれ、雨の日と晴の日がちょこまか入れ替わるのはその為です。

4、気団

日本には四季があります。日本列島の周囲に気団といって気温や湿度が同じ状態の空気の塊があって、季節によって力関係を変え、日本の気候に影響を与えます。気団には高気圧に関連するものが多く、低気圧には暖かい空気と冷たい空気が入り交じっているので気団という言葉はそぐわないのです。

 

[春]

揚子江気団が発生します。移動性高気圧で、気圧の谷が出来るから天気がコロコロ変わり急激な温度変化が生じます。

[梅雨]

冬に優勢だったシベリヤ気団やオホーツク海気団が衰えてきて、これから勢力を伸ばそうとする小笠原気団と日本付近でぶつかります。するとその間に低気圧が出来て、力が拮抗するから停帯前線になります。これが梅雨前線です。小笠原気団が優勢の時は暖かいのですが、オホーツク海気団が優勢の時は梅雨寒をもたらします。7月20日頃梅雨があけてその後10日ほど天気が安定するので“梅雨明け10日”と言います。しかし、年によっては小笠原気団の勢力が弱いことがあり、その時は戻り梅雨になります。

[夏]

小笠原気団が勢力を保って夏型の好転が続きます。小笠原気団は暖かくて湿った気団ですが、更に高温で多湿の赤道気団が台風と共にやって来きます。台風のエネルギー源は海からの水蒸気で海水温度が高いほど強い台風になります。

[秋]

そうこうするうちに、またシベリヤ気団やオホーツク気団が勢力を盛り返してきて力が拮抗し、停帯前線が出来ます。秋雨前線といい、秋の長雨です。しかし、10月中旬を過ぎると天気が安定し、さわやかな快晴の日が多くなります。1年を通じて最も登山に適した時期です。

[冬]

シベリヤ気団がやってきて日本海を越えるときに水蒸気を含み、高い山脈にぶつかって豪雪を降らします。その後ろはカラッ風で晴天になり、太平洋側で何日も悪天が続くことはありません。

5、雷

地上や海上が暑いと暖められた空気が上昇していきますが、普通はゆっくり上昇するから上空の冷たい空気と除々に混ざり合って上昇を止め、積雲を発生させて安定します。ところが上空に寒気が流れ込んだり地上が猛暑だったりして、上下の温度差が大きいと急激な上昇気流になり、積雲の高さでも上昇が止まりません。上空の低温に吸い上げられるようにもっと高い所まで昇ってしまって、雷を生む積乱雲を発生させます。

積乱雲の中では、上昇気流で吹き上げられる氷晶と重力で落ちるアラレが接触し、プラスとマイナスの電気が生まれて雷が発生します。

雷発生を予測するには、御前崎の気温を海抜0メートルの目安とし、富士山頂の気温を上空の目安として、その温度差に着目します。温度差22°C以上は要注意で、温度差25°C以上になると高い確率で雷が発生します。雷3日と言って一旦発生すると何日か続くことが多いです。この時、発生時刻は毎日1時間くらいずつ早くなります。

雷雲の上に平たい雲が出来ることがあるが、これは最大級の雷雲です。雷雲がどんどん上昇してついに成層圏まで上ってしまうと、ここより高所へは上れないので、この場所で平たくなるのです。

山で雷が発生したときの行動

落雷を防ぐ方法に決定的なものはありません。高い所や突起した所に落ちるので、窪地等の低い所で姿勢を低くして通過を待つしかありません。金属に落ちるというのは迷信だから考えなくて良いですが、傘やストック等の長い物は体から離しておきましょう。テント内も危険なので隠れる岩場を探します。森林帯ではどの木に落ちても不思議はありません。高い木のテッペンを45°の角度で見上げる場所より内側は安全ですが、幹から2m以内は電流が走るので避けたいです。

大勢のパーティの時は散らばって、各々這いつくばりましょう。あずま屋に入ったら柱から離れること。高圧電線の下は安全ですが鉄塔の下は危険です。15km~20kmが雷の音が聞こえる範囲なので、“ゴロゴロ”が聞こえたら 20 分~30 分の間に窪地を探す等の避難行動 をとらなければなりません。

山の天気と行動

1、観天望気 – 空を見て天気を予想しよう –

「太陽に笠が掛ったら悪天の前兆」と言いますし、夏空に湧く入道雲を見れば雷雨を予想します。
このように空を観て天気を予想することを観天望気と言いいます。

高層雲は全天を厚く覆う雲で天気が悪くなる兆候だから、これを見たら、もってもあと数時間と予想しよう。
見慣れない雲が出たら上空に低気圧がある証拠だから雨が降ると考えて良いです。それが複雑な雲であればあるほど雨の降る確率が高いです。

観天望気をするには自分より西側の空をみて、雲を眺めると良いです。近くに巻雲があり、その先に巻層雲が出ていて、更に西の方の雲が厚くなっていたら天気が悪くなる兆しです。

笠雲が出来るのは空気が湿っているからで、低気圧が接近している証拠です。湿った空気が山に当たって上昇気流となり、上にいく程冷えて、水蒸気が飽和になり雲に変わります。ぽっかり浮かんでじっと動かないように見えるけれど、実は高速で流れています。山頂の手前では雲にならず、山頂を過ぎると雲が消えるのでこのように見えるだけで、中味は常に新陳代謝しています。

レンズ雲は巻積雲・高積雲・層積雲・積雲が上空の強い風に吹き流されて変形したものです。低気圧が近づいて地上では南風や南西風が吹き、上空には西寄りの強風が吹き荒れている時に出るので、レンズ雲・吊し雲・笠雲は一緒に浮かぶことが多いです。

富士山に笠雲がかると12時間以内に雨が降り出す確率は80%以上と言われていますが、笠雲・吊し雲・レンズ雲が同時に現れたら10時間以内に悪天候になる確率は85%くらいに上がります。

「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」という諺は当を得ています。朝焼けは太陽が西の雲に当たって輝いているのだから、西に雲があるのでこれから雨になります。夕焼けは西にある太陽が東の雲に当たって輝いているのだから、西には雲がありません。

「阿蘇の噴煙が北西になび けば雨、南へなびけば晴」という諺は、「南東の風は雨、北の風は晴」ということだから当たっています。低気圧が近づけば南東の風が吹き、低気圧が去っていくと北の風が吹くからです。

各地にいろんな諺がありますが、それらは次のことを意味しています。

  1. 雲: 低気圧が近づいた時できる雲は要注意
  2. 風: 高い山で南風に変わるのは低気圧が接近した兆し
  3. 星: 星がまたたくのは大気中に水蒸気が多い証拠
  4. 音: 今まで聞こえなかった音が聞こえるのは風向きの変化か湿度の変化
  5. 視界:視 界が良くなり、遠くの山が見えるのは上昇気流の発生

2、行動 – 山登りの「旬」

山登りには旬があります。日本は世界に類を見ないほど四季の変化がはっきりした国で、そのために天候の変化が激しいですが、天候を恐れの対象にしないで、楽しみの対象にしよう。

[春]

新緑の低山や沢登り・岩登り、が楽しめる。残雪の高山で陽光の雪稜歩きも良いと思います。

[梅雨]

どうせ濡れるのだから、梅雨のカモシカ山行や雨の沢登りが良いですね。

[夏]

日本アルプスが楽しい。ビバークをするような大きな沢も良いです。低山は暑いし、蚊が多いから夏は辛いです。

[秋]

紅葉の低山や沢登り・岩登りが良いと思います。雪が降る前なら高山の稜線も美しいです。

[冬]

南アルプスは晴れることが多く、豪雪地帯では無いから手頃な雪山が楽しめます。雪山初心者は八ヶ岳が良いと思います。

3、雨の日の行動

雨の日に行動するなら防水透湿素材で出来ているセパレート型レインウエアを着よう。しかし、その防水機能や透湿機能は完璧でないから、汗をかかないように薄着し、濡れても乾く服装の上に雨具を着ます。雨が降れば風も吹いているから、動けば暑く休めば寒いという厄介な山行になります。

暑ければ雨具を着ないで傘をさしても良いですが、傘は風が吹くとひとたまりも無く、狭い登山道では両側の枝にぶつかります。また、片手が塞がるので止めた方が賢明です。

雨の山行で困るのは道が滑り易いことです。また、視界が効かない上にフードで視野が遮られるからルートファインディングに失敗し易いのです。森林限界を越えると岩や砂地の道が多く、雨で踏み跡が消えます。雨の中では地図を出すのが面倒になり、「左だろう」判断で方向を誤ることがありますので、地図と磁石で進む方向を確認しよう。

ホワイトアウトと言うのは濃い霧に包まれて視界が無くなることですが、この時は霧が晴れるのをひたすら待つしかない。大雨で川が増水して、濁流と化していては通れません。状況を正しく判断して予定を変更する登山力が必要です。

4、山での行動10のTips

最後に、覚えておくと山での行動で役に立つ豆知識をご紹介します。

  1. 標高が高くなるほど太陽に近づくのに気温が下がるは何故でしょうか。標高が高くなるほど日焼けし易いのは何故でしょうか。どちらも標高が高いほど空気が薄くなるからです。
  2. 山の天気は平地より早く崩れ、激しく崩れて、回復が遅いです。低気圧の平均速度は約50km/hだから1000km西で雨なら20時間後に雨が降る計算ですが、山ではこれより6時間早く雨になります。雨は強く降るほど早くあがります。ピカピカザーは力があっても、短いから2時間もすれば止んでしまいます。
  3. 山の大きさや地形、その他さまざまな要素の影響を受けて山では複雑な風が吹き、標高が増すほど風が強くなります。そして風は呼吸します。突然強風が止まった時バランスを崩して転落しないようにしよう。
  4. 雪山の1月2月は時間帯に関係なく表層なだれ(新雪なだれ)が起きます。3月からは晴れた日・雨の時・高温の時に全層なだれ(底なだれ)が起きます。4月5月は雪庇等が崩れるブロックなだれが起きます。
  5. “春の嵐”はメイストームといって5月連休頃に高山で起こり、風速70km/h~100km/hだからテントがビリビリ裂けるくらいの強風が吹きます。低気圧が日本海で猛烈に発達するためで、南風が吹いて気温が上昇するからブロックなだれの危険があります。
  6. 爆弾低気圧とは中心気圧が1日に24ヘクトパスカル以上下降する激しい低気圧を言います。冬で恐ろしいのに二つ玉低気圧といって、二つの低気圧が日本付近を通過する際にまとまって爆弾低気圧にまで発達するケースで、山は吹雪と強風で大荒れとなります。関東の東海上または三陸沖でまとまることが多いです。途中に疑似好天が挟まることがあり、これに騙されてテントを出て遭難した例があります。
  7. 天気予報は精度が上がっていて今日・明日の予報は85%くらいの高い確率で当たります。しかし、3日目以降はあまり当てにならないから参考程度です。
  8. 天気予報では「台風」と「熱帯低気圧」を使い分けているが、これは単に中心風速が17m/sより速いか遅いかだけであって雨量は関係ないし、熱帯低気圧でもすぐ台風に変わったりするから、登山においては同じと考えて良いです。
  9. 大雨注意報は雨量が30mm/hを越える見通しだと出されます。これは道路の側溝が溢れるくらいのどしゃ降りです。激しい雨と言ったら20mm/h~30mm/hで、単に雨と言ったら地面に水溜りが出来る程度の3mm/h~8mm/hであり、小雨と言ったら地面がしめる程度の1mm/h未満です。
  10. 天気図は昔描いて得意な人は初心者にも描かせたがりますが、複雑で覚えるのが容易でなく、一旦覚えても慣れないと使いこなせません。山で“ひまわり”の映像を見ることが出来る現代では特殊な登山でない限り天気図を描くことはありません。

最後に

いかがでしたか。山での天気は行動に大きく影響します。本稿の内容が少しでもみなさまの安全登山の手助けになれば幸いです。
 

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