新雪をかきわけて進む快感!?雪山ラッセル訓練 – 登山の総合スキルが学べる「JMIA登山講習会」

山岳指導のプロから登山の様々な知識や技術を学べる「JMIA登山講習会」、今回のレポートは雪山訓練です。

すでに机上での講座と雪山での基本動作や歩行訓練を実施しており、それを踏まえて今回はいよいよ雪山登山、講習テーマとしてはラッセル訓練となります。

登山が好きな方でも、雪山はやらないという方もけっこう聞きます。

それはおそらく、雪山には危険なイメージがある点や、一人ではなかなかハードルが高く、雪山登山をするためには経験者からのレクチャーがないと難しいこともあるので、やってみたいけどまわりに教えてくれる方がいなかったり、頼みづらかったりすることなども要因なのではないかと思います。

JMIA登山講習会は、単発の登山講習会とは異なり同じメンバーと継続的に学んでいくことができるので、雪山に挑戦したいと考えている方にはぴったりのシステムですし、メンバーどうしは自然と一緒に切磋琢磨する仲間になっていきますので、山の仲間づくりの場としても最高なんです。実際にメンバーどうしで自主的に山行を企画したり、クライミングの練習なども行っているようで楽しそうです。

もし興味ありましたらこちらからお気軽にお問い合わせください。

ちょっと本題からそれてしまいましたが、さっそく今回の講習をレポートしていきたいと思います。

今回の行程

この日目指したのは、群馬県沼田市は武尊山の西側に位置し、たんばらスキー場で有名な玉原高原にある標高1,637mの鹿俣山。

今回は講習生5名に加え、講師陣や先輩講習生の参加もあり全部で9名のパーティで、上毛高原駅で待ち合わせ組の車1台と、東京からピックアップ組の車1台で、玉原スキー場第1駐車場(1000円/日)に集合。早朝時点では雲一つない快晴。周りはスキーヤー/スノーボーダーばかりで、我々のほかに登山者は見当たりませんでした。

この日のテーマは、鹿俣山登山をしながらラッセル訓練を中心とした雪山基本動作のトレーニングです。

まず、第2駐車場のトイレ脇にある登山口を探します。目印となる玉原高原遊歩道案内マップの看板は積雪でほぼ埋まっていましたが、なんとか見つけ出します。登山口から樹林帯に入ったときの積雪量は、つぼ足で膝上程度、ワカン装着で脛~膝下程度でした。

山頂まではワカンを装着し、地形図・コンパスを使ってルートファインディングしながら進みます。夏山と違って登山道は雪に覆われてわかりませんので、地図読みは重要になります。目印のピンクテープもところどころで散見される程度でした。

行程は概ね緩やかな登りでしたが、山頂直下を含む数個所で急登があり、1個所で急な下りも。急登では、講師をお手本にして、いわゆる2段攻撃・3段攻撃のラッセル(後述)を練習し、急な下りでは、尻セードを楽しみました。山頂でワカンからアイゼンに履き替え、下山は前回の講習の復習をしながらアイゼン歩行を行いました。

天候に関しては、登りの行程の前半は晴天で、とても気持良い雪山ハイクでした。しかし、予報通り、正午前から曇り始めて山頂到着時は雪となり、開けた場所では風にさらされました。その影響で、下山時には一部の踏み跡が消えかかっており、気温も急速に低下してきたため、早々に山を下りました。

講習で学んだポイント

ワカン装着

ワカンのベルトをリングに通すときは外側から内側に通すようにします。これはアイゼンもそうですが、こうするとベルトにかかる張力により、リングで折り返されたベルト部分が締まって緩みにくいんです。ベルトの末端処理もアイゼンと同じで、邪魔にならぬよう縛る、織り込む等します。歩行を続けていく間にどうしてもベルトが緩んでくるので、都度、確認して締め直す必要があります。

ワカンでの歩行方法

アイゼンと同じくワカンもフラットフッティング、静荷重・静移動が基本。雪面から足を真上に挙げ、その状態で前に移動させ、真下に踏み下ろして体重を乗せながら体を前に移動させる、を繰り返します。

スリップや疲労の原因になるため、爪先で雪面を蹴る・踵から着地する・踵を後ろに蹴り上げる等の動きは行わないようにします。おいらん歩きを推奨する場合がありますが、それが出来るのは先行者だけであり、後続組は狭い溝の雪壁にワカンがぶつかって困難だから練習しないで良いとのこと。

ラッセルする時の役割分担(傾斜が緩い場所)

先頭の人

ずっと先頭でラッセルするのは体力が持ちませんので、あらかじめ交代するまでの歩数を決めておきます。そして、後続の人を歩きやすくするため、両足の幅方向の間隔は或る程度広くします。また、後続の人の歩幅と合わなくなるため歩幅をあまり広くしないようにします。先頭を交代するときは、横に逃げて2番目の人に先頭を譲ります。

2番目の人

先頭の人が踏み残した雪を崩し、先頭の人に踏まれてできた穴の中に埋めていくようにして足を置いていきます。足を上げる際には、溝中央に残った雪の壁を前に崩していきます。完璧な作業は望まず、ラフでOK

3番目の人

先頭及び2番目の人が踏み残した雪を穴に崩していきます。できる限り整地していくイメージですが、ラフでOK。

4番目の人

雪面に凸凹がないように踏み固めながら整地していきます。更に後続の人は、好きな歩幅で気楽に歩いて、水を飲むなど休息しながら次の先頭に備えます。

その他

先頭の人は頑張りすぎないようにして、自分のスピードが落ちる前に2番目の人に先頭を譲ります。そのほうがグループ全体としては速くすすみます。また、雪山で汗をかくと後から冷えてくるので、汗をかくまでは頑張らないようにします。

先頭の人はラッセルの作業に没頭してしまいがちなので、現在位置や進路の確認については、2番目以降の人が注意します。

雪量に応じたラッセルのしかた

ワカンで踏んだときに潜る量が膝下までのときは上述したラッセルで対応します。

膝~腿のときは、膝で雪面を押して窪みを作り、その上にワカンを乗せ、複数回踏み込んで押し固めてから(圧力で雪を固着させてから)立ち上がる、というのを繰り返していきます(いわゆる2段攻撃)。

腿より上のときは、ピッケルを横にして雪を掻き下ろし、膝の前に集めてから、上記②を行います(いわゆる3段攻撃)。

斜度に応じたラッセルのしかた

登りの斜度がきつい場合は階段状に踏み跡を作ります。そして、後続する2番目以降の人も同じ踏み跡を辿って階段を崩さないようにします。階段面は、ワカンのつま先をほんの少し下げた状態で足を複数回、ギュッギュッと踏み込んで、雪を押し固めるイメージで作ります。

ラッセルに関するその他の注意事項

  • ラッセルは運動量が多いので、気温に合わせて少し寒いかな、程度が丁度良い
  • 急斜面のラッセルは時間がかかるので、多少遠回りでも緩斜面を進路に選ぶのも一案
  • 行動食摂取やウェア調整等の作業は、ラッセルの順番が後ろに回ったときに行うのがスムーズ
  • ラッセルした踏み跡を辿って下山するときは、アイゼンに履き替える
  • 実際の雪山登山において、ラッセルしている先行パーティがいるときは、追いついてお礼を言ってから、一緒にやりましょうと声をかける。(ラッセル泥棒はマナー違反)

雪山登山に関する注意事項

雪庇、雪崩、滑落の3つの危険に注意します。

雪庇

尾根の上からは雪庇の有無は判別しにくいです。雪庇が崩れる時は尾根上にある雪も巻き込んで崩れ落ちるので、自分の直下が地面であっても安心はできません。ルートが樹木より内側なら安心できます。

雪崩

木が密集したエリアは雪崩が発生しにくいですが、低木がまばらにある程度(または木が無いエリア、いわゆるボウズ)で傾斜があると雪崩が起こりやすい地形といえます。特に、斜度が30度~45度のエリア(スキー場の上級者コースのイメージ)で発生しやすいです。

新しい雪崩の跡が見られる場所はまた雪崩れると考えてよく、『この先は危険』と判断したら迂回路をとるか、それもなければ登山を中止する勇気が必要です。

雪崩の種類は、表層雪崩(眞冬の降雪後に多い)と、全層雪崩(春先の融雪時に多い)があります。笹や草の生えた斜面上に積った雪は土面に積った雪より全層雪崩が起こりやすいといえます。

深さ数センチ程度の小規模な表層雪崩はよく起こります。小規模の表層雪崩に遭遇した場合は流されないように耐えるようにします。流されてしまったら顔が雪面より上に出るような姿勢をとります。

滑落

今日の講習内容から外れるため割愛

アイゼン歩行時のポイント

  • 2本のレール・・・後ろを引っ掻けない
  • フラットフッティング・・・静荷重・静移動
  • 引きずらない・・・アイゼンの歯をしっかり打込む

受講生の声

ラッセル時、先頭からの順番によってこんなにも負担感が違うのかと驚いた。先頭を進むときの大変さは別格だったが、その一方で、汗をかきながらまっさらな新雪を踏むときの感覚は気持が良かった。また、メンバーみんなの力を合わせて作った踏み跡を振りかえって見たときには、なんとも言えない達成感を感じた。静荷重・静移動については、意識していないとなかなか難しく、油断すると、後ろ足を跳ね上げてしまっていた。或る程度自然にできるようになるまでには、意識づけと練習が必要だと思った。(A.S)

 

ラッセル訓練を行い、改めて体型(体重)改善の必要性を痛感した。歩き方、足の運び方なども日ごろからトレーニングしていこうと思った。ただ、雪山のすばらしさを体験できて、ますます登山が好きになった。技術を磨き、更に挑戦したい。(Y.S)

 

新雪を進む景色はとても清々しくて気分良いが、先頭でラッセルしたときは、足元ばかりを見ていて景色を楽しむ余裕はなかった。後方を歩くときは、前のメンバーが切り開いてくれた道はとてもありがたく、感謝の気持ちで歩いた。午後から天候が悪化し、ラッセルで暑くなった体は一気に冷えてしまい、早めに一枚着ておくべきだったと反省した。(Y.O)

 

帰宅後にGPSログから移動速度を計算したところ標準コースタイムの上り2.7倍、下り1.5倍となっていた。山行時にはここまで速度が低下していたことに気づかなかった。ラッセルは体力が必要なだけでなく、移動速度の低下も発生していることを経験することができてよかった。今後の山行では時間的な余裕をもって計画するようにしたい。(T.M)

 

過去に2、3回ラッセル経験はあったが、その時は人数が少なく雪の量も今回より多かったため途中で撤退していた。ラッセルで登頂は今回が初めてだった。
技術的には、歩行の基本動作やパーティで歩行順番ごとの役割も学べ、有意義な訓練だった。(K.O)

最後に

いかがでしたでしょうか。JMIA登山講習会は同じメンバーで2年間かけて登山の総合スキルを身につける講座で、登山形態としても縦走・雪山・クライミング・沢登りなど多岐にわたって学んでいきます。

現在、来年度から始まる第四期生を絶賛募集中です。気になることがあれば、ささいなことでもお問い合わせください。講座の担当講師よりご質問には丁寧にお答えしており、実際、受講生もそういったやり取りを通じて納得して受講を決めています。ぜひ、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです!

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